南島譚
本文約8,700字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
南洋群島の島民たちが暮らす島で、筆者は一人の老人・マルクープと出会う。製作を依頼しても出鱈目な品を渡し、時計を盗むなど不可解な振る舞いを繰り返すこの老人は、死の直前、筆者に対して手厚い贈り物を託す。死の影を前にして突如として示された老人による親切と、これまでの不誠実な行動の乖離に、筆者は彼らの不可解な心理と生活感情の深淵を垣間見、異文化に対する理解の難しさを改めて痛感する。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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南洋群島島民のための初等学校を公学校というが、或る島の公学校を参観した時のこと、丁度朝礼で新任の一教師の紹介が行われている所にぶつかった。其の新しい先生はまだ如何にも若々しく見えるのだが、既に公学校教育には永年の経験のある人だという。校長の紹介の辞についで其の先生が壇に上り、就任の挨拶をした。
「今日から先生がお前等と勉強することになった。先生はもう長いこと南洋で島民に教えとる。お前等のすることは何から何まで先生にはよう分っとる。先生の前でだけ大人しくして、先生のおらん所で怠けとっても、先生には直ぐ分るぞ。」
一句一句ハッキリと句切り、怒鳴るような大声であった。
「先生をごまかそうと思っても駄目だ。先生は怖いぞ。先生のいうことを良く守れ。いいか。分ったか? 分った者は手を挙げよ!」
凡そボロボロなシャツや簡単着をまとった数百の色の黒い男女生徒が、一斉に手を挙げた。
「よし!」と新任の先生は特に声を大きくして言った。「分ったら、それでよし。先生の話は之で終り!」
一礼の後、数百の島民児童の眼が再び心からなる畏敬の色を浮かべて新しい先生の姿を仰ぎ見た。
畏敬の色を浮かべたのは生徒等ばかりではない。私も亦畏敬と讃嘆の念を以て此の挨拶に聞入った。但し、それ以外に若干の不審の表情をも私は浮かべたのかも知れぬ。というのは、朝礼が済んで職員室に入ってから其の新任教師は私の其の表情に弁解するかの様な調子で斯う言ったからである。
「島民にはですな、あの位の調子で威しとかんと、後まで抑えがきかんですからなあ。」
そう言って其の先生は見事に日焼した顔に白い歯を見せて明るく笑った。
内地から南洋へ来たばかりの若い人達は、斯うした事実を前にすると、往々にして眉を顰めがちである。しかし、南洋に二三年も過ごした人だと、最早この様な事柄に何等不審を感じない。或いは、こういうのが島民に接する最上の老練さだと考えもしよう。