お魚女史
本文約9,400字 ・ 読了時間 約19分
あらすじ(AIが作成しました)
ある朝、雑誌記者の青年が文士の自宅を訪れ、香港から引き揚げてきたという美貌の女を連れてくる。女は訪問先で奇妙な言動を繰り返し、周囲を翻弄しながら自身の防空壕へ文士一行を招き入れる。夜が更けてもなお女との賭け事や交流が続く中、同行していた作家らはその不思議な魅力や不可解な行動に次第に引き込まれていく。本作は、突然現れた謎めいた女を巡る騒動と、彼女に振り回される文士たちの滑稽な日常を描く。
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その朝は玄関脇の応接間に×社の津田弁吉という頭の調子の一風変った青年記者が泊りこんでいた。私は徹夜で×社の原稿を書きあげたところで、これから酒をのんで一眠りと、食事の用意ができたら弁吉を起そうと考えていた。その弁吉がキチンと身仕度をとゝのえて、ノッソリとあがってきた。
「ねえ、先生、妙な女が現れたよ。キチガイかも知れないねえ」
文士の生活になじんでいる雑誌記者というものは、若年で、頭のネジが狂っていても、訪問客にヘマな応待はしないものだ。私が安心していると、弁吉はニヤリ/\と、
「ねえ、先生、会っておやりよ。海のねえ、ホラ、お魚ねえ、お魚みたいな喋り方をするんだよ」
「パクパクやるのかい」
「そうじゃないんだよ。会ってみないと判らないんだ。とにかく、美人だね。ハハハ。すごく、色ッぽいんだ。ちょッとね、目にしみちゃってね、ハハハ、ボクは美人にもろいんだよ。デねえ、社の原稿書いてもらってるところだろう。本来なら撃退しなきゃアならないんだけどねえ、そこんとこを何とかしてあげるッてネ、恩をきせてネ、ハハハ、約束しちゃったんだよ。だからさ、会ッてやっておくれよ、ねえ。アレ、ちょうど、いゝや。原稿、できてらア。ハハハ、うまく、いってやがら」
そこへ食事の仕度を運んできた女房と女中が、弁吉を見ると、テーブルへガチャンとお盆をおいて、腹を押えて笑いころげた。
「ハハハ、あれを立ちぎゝしたネ」
と笑いのとまらない二人の女を見下して弁吉はニヤリニヤリ、
「ハハハ、ボクがね、あなた小説かいてるのッて、きいたんだ。するとねエ、アンタ、書生? 玄関番? て訊きやがんのさ。ボク、編輯長ですよッて言ったんだ。オドロカねえのさ。だもんでネ、ボクねエ、本当は、新人のねエ、一流のねエ、詩人でねエ、ペンネーム教えてあげようかッてねエ、アハハ、ほんとに訊かれちゃったら誰を名乗ってやろうかと思ってさ、ちょッと困っていたけどさ、アハハ、テンデ訊かねエや」
二人の女は益々笑いがとまらなくなったが、弁吉は悠然たるものである。