日本再建と科学
本文約8,700字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
終戦直後の混乱期にある日本において、荒廃した産業の復興と国民生活の安定には科学の力が不可欠であることを論じる。物質文明のみならず精神文化の発展にも寄与する科学の役割を明示し、基礎研究から応用研究に至る一貫した協力体制の重要性を説く。さらに、科学振興の土台となる独創性を育む科学教育の必要性と、研究環境の整備や教師の待遇改善を含む国家的な取り組みを提言し、科学技術による平和国家としての再建を目指す。
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1.緒言
現在の我が國は,虚脱状態にあると謂はれる.全くその通りである.これは敗戰國の常として怪しむに足りない.殊にあれだけの無茶な戰爭をした後としては急に立ち直ることを注文する方が無理であらう.然し終戰後既に半年を過ぎても荒漠たる燒野原は依然としてその儘であり,燒け殘つた工場の煙突からはいつ迄經つても殆んど煙は擧らない.そして次から次へと勞働爭議が起り,賃金と物價とが競爭して昂騰して行つた結果が經濟緊急措置となつて現はれたのであるが,この先がどうなることかと危ぶまれるのである.そして人々はその日その日の食ふことにばかり氣を奪はれて,科學などといふ直接パンに關聯を持たない文化の分野は,ややもすると國民の腦裡から消え去つてしまふといふ状態である.これで好いのであらうか.
この儘で進んでゆけば,物資の不足と道義の頽廢とは遂にこの古い歴史をもつ國家を破滅の危機に追ひ込んでしまふであらう.それは世界の歴史から見ても悲しむべきことであり,又そんな國が地球上に存在することは,國際上惡影響を及ぼす處が尠くない.これを考へるとどうしてもこの下向きの傾向を止めて上昇曲線に載せることが絶對に必要である.それは國民各自の責任であり,あらゆる分野の大きな建設的協力なくしては行はれ得ないことである.今自分は科學がこの我が國の再建に如何なる役割を持つてゐるかを述べ,それぞれの關係者の努力を要請したいと思ふ.
2.科學の役割
近代の物質文明は科學の發展によるものであるといつて差支へないであらう.否,物質文化のみならず,それを通して精神文化を今日の状態に持ち來たすに與つて力のあつたことは否めない事實である.