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TORENDIA

若い木霊

本文約3,600字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

春の訪れを告げる若い木霊は、枯草の丘を歩きながら眠る柏の木や栗の木に声をかけ、春の到来を促します。ある窪地で蟇から「鴾の火」という言葉を聞いた木霊は、胸を熱くし、空を飛ぶ鴾という鳥を追いかけます。やがて木霊は桃色の光に包まれた不思議な異空間へ飛び込みますが、そこでの体験を経て現実の丘へと戻り、再び春を待つ木々を見守りながら自身の帰る場所へと駆け戻っていきます。

宮沢賢治

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🎧 若い木霊 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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〔冒頭原稿数枚なし〕

「ふん。こいつらがざわざわざわざわ云っていたのは、ほんの昨日のようだったがなあ。大抵雪に潰されてしまったんだな。」

それから若い木霊は、明るい枯草の丘の間を歩いて行きました。

丘の窪みや皺に、一きれ二きれの消え残りの雪が、まっしろにかがやいて居ります。

木霊はそらを見ました。そのすきとおるまっさおの空で、かすかにかすかにふるえているものがありました。

「ふん。日の光がぷるぷるやってやがる。いや、日の光だけでもないぞ。風だ。いや、風だけでもないな。何かこう小さなすきとおる蜂のようなやつかな。ひばりの声のようなもんかな。いや、そうでもないぞ。おかしいな。おれの胸までどきどき云いやがる。ふん。」

若い木霊はずんずん草をわたって行きました。

丘のかげに六本の柏の木が立っていました。風が来ましたのでその去年の枯れ葉はザラザラ鳴りました。

若い木霊はそっちへ行って高く叫びました。

「おおい。まだねてるのかい。もう春だぞ、出て来いよ。おい。ねぼうだなあ、おおい。」

風がやみましたので柏の木はすっかり静まってカサッとも云いませんでした。若い木霊はその幹に一本ずつすきとおる大きな耳をつけて木の中の音を聞きましたがどの樹もしんとして居りました。そこで

「えいねぼう。おれが来たしるしだけつけて置こう。」と云いながら柏の木の下の枯れた草穂をつかんで四つだけ結び合いました。

そして又ふらふらと歩き出しました。丘はだんだん下って行って小さな窪地になりました。そこはまっ黒な土があたたかにしめり湯気はふくふく春のよろこびを吐いていました。

一疋の蟇がそこをのそのそ這って居りました。若い木霊はギクッとして立ち止まりました。

それは早くもその蟇の語を聞いたからです。

「鴾の火だ。鴾の火だ。もう空だって碧くはないんだ。

桃色のペラペラの寒天でできているんだ。いい天気だ。

ぽかぽかするなあ。」

若い木霊の胸はどきどきして息はその底で火でも燃えているように熱くはあはあするのでした。木霊はそっと窪地をはなれました。次の丘には栗の木があちこちかがやくやどり木のまりをつけて立っていました。

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