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TORENDIA

生活の貧しさ

本文約720字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

紀元節の朝、映画女優の実演を観ようと劇場に殺到し、怪我人を出すほどの混乱を引き起こした群衆の行動を論じる。流行に流され、精神的な充足を得られないまま見物する人々の姿を、現代日本人の生活がいかに貧しいかという観点から分析する。世相を象徴するこの事件を通じて、単なる群衆の非難にとどまらず、人々の内面的な空虚さを指摘し、教育者や為政者に対して深い反省を強く促す内容を収める。

岸田國士

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🎧 生活の貧しさ / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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紀元節の朝、一映画女優の実演とやらを観るために、多数の見物が丸之内の某劇場に押しかけ、蜿蜒長蛇の列をつくるだけならまだしも、その余りが道路を埋め、百名の警官が整理に当つたが、群衆はその制止をきかず、混乱の極、怪我人まで出してつひに退散を命ぜられたといふ馬鹿馬鹿しい話が伝へられた。

私はその現状を目撃したわけではないが、聞くところによると、群衆の七割が男、その半数は学生であつたとのこと、それについて意見を求められたから、日頃考へてゐることを率直にいふが、この事件は、たまたま現代日本文化の病根を拡大してみせたものであつて、いろいろな角度からこれを分析批評することはできるけれども、一言にしてこれを尽せば、「生活の貧しさ」そのものゝ現れなのである。

どんな魅力のある女優にせよ、その舞台に接しようとする欲求が、尋常な形で示されてゐないこと、つまり、醜いなにものかを露出してゐることを自分自身気づかないといふところに、これらの群衆一人一人の「嗜み」のなさがうかがはれるばかりではない。評判になつたものなら、是が非でも話の種に観ておかねばならぬといふやうな心理が、いかにゆとりのないものであるかを考へると、それらの人々の日常生活がおよそ察せられるやうに思ふ。

すなはちさういふ人々に限つてものゝ価値判断があやふやで、精神的にまつたく空虚な、従つて、ほかに心を愉しませるすべのない生活を送つてゐるに違ひないのである。

時局がら不謹慎だといふ見方は別として、私は、偶然、その劇場に集つた人々だけを責める気はしない。現代日本人の大部分が、いま、さういふ傾向をたどりつつあるのであつて、私はむしろ、これについて教育家と為政者の猛省を促したいと思ふものである。

完

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