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TORENDIA

雪女

本文約10,000字 ・ 読了時間 約21分

あらすじ(AIが作成しました)

満洲の荒涼たる寒村で、商用で奉天へ向かっていた堀部君は、吹雪のため一軒の農家に宿を求める。主人の老人は病に倒れる家族を抱え、堀部君一行を親切に迎え入れる。その地には古くから雪女の伝説が伝わり、美しい娘が白い影に誘い出されるという言い伝えがあった。吹雪の夜、宿の娘が何かに吸い寄せられるように外へ消え去る異様な出来事に遭遇した堀部君は、この地の不可解な伝承の正体を目の当たりにする。

岡本綺堂

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一

O君は語る。

大正の初年から某商会の満洲支店詰を勤めていた堀部君が足かけ十年振りで内地へ帰って来て、彼が満洲で遭遇した雪女の不思議な話を聞かせてくれた。

この出来事の舞台は奉天に近い芹菜堡子とかいう所だそうである。わたしもかつて満洲の土地を踏んだことがあるが、その芹菜堡子とかいうのはどんなところか知らない。しかし、それがいわゆる雲朔に近い荒涼たる寒村であることは容易に想像される。堀部君は商会の用向きで、遼陽の支店を出発して、まず撫順の炭鉱へ行って、それから汽車で蘇家屯へ引っ返して、蘇家屯かち更に渾河の方面にむかった。蘇家屯から奉天までは真っ直ぐに汽車で行かれるのであるが、堀部君は商売用の都合から渾河で汽車にわかれて、供に連れたシナ人と二人で奉天街道をたどって行った。

一月の末で、おとといはここでもかなりの雪が降った。きょうは朝から陰って剣のように尖った北風がひゅうひゅうと吹く。土地に馴れている堀部君は毛皮の帽子を眉深にかぶって、あつい外套の襟に顔をうずめて、十分に防寒の支度を整えていたのであるが、それでも総身の血が凍るように冷えて来た。おまけに途中で日が暮れかかって、灰のような細かい雪が突然に吹きおろして来たので、堀部君はいよいよ遣り切れなくなった。たずねる先は渾河と奉天との丁度まん中で、その土地でも有名な劉という資産家の宅であるが、そこまではまだ十七清里ほどあると聞かされて、堀部君はがっかりした。

日は暮れかかる、雪は降って来る。これから満洲の田舎路を日本の里数で約三里も歩かせられては堪まらないと思ったので、堀部君は途中で供のシナ人に相談した。

「これから劉の家までは大変だ。どこかそこらに泊めてもらうことは出来まいか。」

供のシナ人は堀部君の店に長く奉公して、気心のよく知れている正直な青年であった。彼は李多というのが本名であるが、堀部君の店では日本式に李太郎と呼びならわしていた。

「劉家、遠いあります。」と、李太郎も白い息をふきながら答えた。「しかし、ここらに客桟ありません。」

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