TORENDIA
横綱
太宰治
TORENDIA
横綱
本文約410字 ・ 読了時間 約1分
あらすじ(AIが作成しました)
必要のない言葉には返事をしないという横綱双葉山の逸話と、おでん屋で見つけた「忍」の掛軸の署名に驚いた顛末を通して、その人柄を偲ぶ太宰治の随筆(現代仮名遣い版)。
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🎧 横綱 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ
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二、三年前の、都新聞の正月版に、私は横綱男女ノ川に就いて書いたが、ことしは横綱双葉山に就いて少し書きましょう。
私は、角力に就いては何も知らぬのであるが、それでも、横綱というものには無関心でない。或る正直な人から聞いた話であるが、双葉山という男は、必要の無いことに対しては返辞をしないそうである。お元気ですか。お寒いですね。おいそがしいでしょう。すべて必要の無い言葉である。双葉山は返辞をしないそうである。
何とか返辞をしろ、といきり立ち腕力に訴えようとしても、相手は、双葉山である。どうも、いけない。
或るおでんやの床の間に「忍」という一字を大きく書いた掛軸があった。あまり上手でない字であった。いずれ、へんな名士の書であろうと思い、私は軽蔑して、ふと署名のところを見ると、双葉山である。
私は酒杯を手にして長大息を発した。この一字に依って、双葉山の十年来の私生活さえわかるような気がしたのである。横綱の忍の教えは、可憐である。
完