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TORENDIA

海難記

本文約28,300字 ・ 読了時間 約57分

あらすじ(AIが作成しました)

ルイ十八世復古政府の第三年、仏領西亜弗利加へ向かう戦艦ラ・メデュウズがアルグゥイーンの浮洲に擱坐する。無能な指揮官の判断により軍艦は放棄され、乗員は六隻の端艇と巨大な筏に分乗して漂流を開始する。特に百四十九名を乗せた筏の上では、絶望的な状況下で傭兵たちによる陰謀、殺し合い、掠奪が繰り広げられる。本書は、極限状態に追い込まれた人間たちの愚行と、のちに「ラ・メデュウズの筏」として語り継がれる惨劇の顛末を記録と証言に基づき詳述する。

久生十蘭

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ルイ十八世復古政府の第三年、仏領西亜弗利加の海岸で、過去にもなく、将来にもあろうとも思えぬ惨澹たる海難事件が起った。

半世紀の間見捨てられていた植民地を再建するため、セネガル河口の[#「セネガル河口の」は底本では「セガル河口の」]サン=ルイ島に行く新任の総督、総督府の官吏、書記、植民地附属の司祭、土木技師、主計、酒保係、地方人の入植団、細君と子供達、植民地警備の歩兵約二個中隊を乗せたラ・メデュウズという三檣戦艦は、海事にも運用にも、なにひとつ心得のない疎漏愚昧な艦隊司令官の指揮にしたがい、当然の帰結として、天気晴朗の昼のさなか、どんな初心な水夫でも知っているアルグゥイーンの浮洲 banc d'Arguin に乗りあげてしまったのである。

これも無智と怯懦な畏怖心から起ったことだが、乗員は一人残らず、なぜか軍艦は間もなく沈んでしまうのだろうと判断した。全員三百三十七名は離脱を肯んじない十七名を軍艦に残し、六隻の端艇と長さ八トアーズ(約七十尺)幅四トアーズ(三十五尺)という馬鹿げ切った巨大な筏――その後長く「ラ・メデュウズの筏」という名で記憶されるようになった有名な筏に分乗して、漠然と南大西洋の未知の海域に漂いだす。六隻の端艇のうちの二隻は、思いもかけぬ僥倖によってサン=ルイ島に辿りついたが、あとの四隻に乗った百八十八名は、海が恐いというだけの理由で端艇を捨て、流賊の出没する、水も草も一点の日蔭もないサハラ沙漠の中で、それぞれが生けるなりの姿であらゆる愚行を演じ、自分から悪運をひきだしていよいよ不幸を深めて行く。「君主」を書いたピェール・ミルはこういっている。

「どいつもこいつも、未練で、卑怯で、大嘘つきばかりだ。この百八十何人かのなかで、いくらか人間らしいやつは、豹に食いちぎられた細君の首のミイラを最後まで離さなかったゲランという軍曹だけだ。それも、どこまで真実なのかわかったものではない。好んで二人だけで独行していたので、誰も見たものはない。吐こうと思えば、どんな嘘だってつけるのだから」

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