本文へ移動
TORENDIA

山茶花

本文約5,000字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

一生をかけて家産を失った平三爺は、病身をおして働き続けようと苦悩する。そんな彼にとって、妻の遺した山茶花の木は唯一の慰めであった。ある日、稲扱き機械を売る男が、その貴重な山茶花を機械と交換しないかと長作親子に持ちかける。長作は父親が大切にする木を手放すことに葛藤するが、困窮する生活のために決断を迫られる。家族の深い慈しみと、苦しい時代の生活の狭間で揺れ動く人々の姿を描く物語。

佐左木俊郎

速度
🎧 山茶花 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 7

平三爺は、病気で腰が痛むと言って、顔を顰めたり、自分で調合した薬を嚥んだりしていたのであったが、それでも、山の畠に、陸稲の落ち穂を拾いに行くのだと言って、嫁のおもんが制めたにもかかわらず、土間の片隅からふごを取って、曲がりかけた腰をたたいたりしながら、戸外へ出て行った。

「落ち穂なんか、孩子どもに拾わせたっていいのだから、無理しねえで、休んでればいいんですのに、爺つあんは……」とおもんは繰り返した。

「ほんでもな、ああして置くとみんな雀に喰ってしまう。一かたまりの雀おりっと、いっぺんにはあ、一度団子して食う分ぐらい、わげなく喰れでしまうがらな。――まあ、なんぼでも拾って来んべで。孩子どもだのなんのって言ってっと、まだはあ、長びく原因で、去年のように、拾わねえうぢに、みんな雀に喰ってしまうがら……」

併し平三爺は、そのまますぐに出掛けて行くのでは無かった。――祖先から承け継いだ財産を、自分の代に、ほとんど無くしてしまったので、爺は、伜への憂慮から、働き続けよう、働き続けようと努力しているのではあるが、しかし、身体の方も大分まいっているのだし、気持ちの上では、より以上に休息を需めているのであった。

殊に今は、疝気を起こしているのだから、爺は、仕事への倦怠と、伜への憂慮との、この二つの間にもだもだしているのである。それで爺は先ず、大きなごつごつの手を両方とも、曲がりかけた腰の上に置いて、浅い霜が溶けてぴしゃぴしゃと湿っている庭を、真直ぐに山茶花の木の下へやって行った。

「おもん。一枝、婆あの位牌さあげて呉ろ。」

爺は、そんなことを言いながら、しばらく山茶花の木の下で、うろうろしていた。

伜の長作は、その時、納屋で稲を扱いでいたのであったが、父親が、おもんが制めるのを肯かずに出て行ったらしい気配なので、世間体などを考え、どうしても引き止めなければならないと思って庭へ出て来た。

「爺つあん。そんな無理なごとしねえで、少し休んだらよがあめんがな?」と長作は、やや語調を強めて言った。

「無理ってほどでもねえげっと……拾わねえうぢに、みんな、雀に喰ってしまうべと思ってや。せっかくとったの……」

佐左木俊郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本