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TORENDIA

最上川

本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

最上川は郷里の象徴として筆者の心に懐かしく残る川である。少年時代、訓導に引率された旅の記憶を中心に、川畔の百目木で見聞きした光景、六十里越の道中、そして川が日本海へと注ぐ酒田での情景を綴る。川の流れや急流の風情、初めて目にする雄大な自然への驚き、そして道中で交わした師や仲間との素朴な会話を通して、幼い日の体験と最上川にまつわる思い出を追想する随筆である。

斎藤茂吉

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🎧 最上川 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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最上川は私の郷里の川だから、世の人のいふ『お国自慢』の一つとして記述することが山ほどあるやうに思ふのであるが、私は少年の頃東京に来てしまつて、物おぼえのついた以後特に文筆を弄しはじめた以後の経験が誠に尠いので、その僅の経験を綴り合せれば、ただ懐しい川として心中に残るのみである。

十三歳の時に上山小学校の訓導が私等五人ばかりの生徒を引率して旅に出た。第一日目は上山の裏山越をして最上川畔のドメキ(百目木)といふところに一泊した。ここに来ると川幅はもう余ほど広く、こんな広い川を見るのは生れて初てである。また向うの断崖に沿うた僅ばかりの平地をば舟を曳いてのぼるのが見える。人が二、三人前こごみにのめるやうにして綱を引いてのぼつてゐる。かういふ光景もまた生れて初てである。暮方になる。川の規模の大きいのを見てゐると、今度は小さい帆を張つた舟が、反対の方に矢のやうにくだるのが見えた。これは曳舟とは違つてまた特別な印象である。その時『みんな知つてんべ、最上川は日本三急流の一だぞ』と先生がいつた。その日の夕食には鮎の焼いたのが三つもついたし、翌朝はまた鮠の焼いたのが五つもついた。何も彼も少年等にとつては珍しい。十二銭づつばかりの宿料を払つて其処を立つた。

『鮎旨かつたなえ』『旨かつたなえ、おれ頭も皆食た』『おまへ腹わたも食たか』『うん腹わたも食たす、骨もく食た』

第二日は湯殿山の近くの志津に一泊、翌日は案内者を雇つて六十里越をして荘内に入つた。六十里峠はまだ一面の雪であつたが、山国の少年等はそんなことには毫しも屈しない。『先生は福島中佐見たいだなえ』『ほだ、先生は福島中佐だ』こんなことを云ひ云ひ少年等は峠を越えた。荘内の鶴岡に一泊し、湯浜に一泊し、はじめて海を見た。

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