春昼後刻
本文約19,100字 ・ 読了時間 約39分
あらすじ(AIが作成しました)
ある春の昼下がり、散策子は出家との対話を反芻しながら独り歩くうちに、春の光に包まれた道で不思議な美女と出会う。彼女は病身を理由に伏せっていた二階から現れ、散策子に言い知れぬ親近感を抱きつつ、ある切実な想いを打ち明ける。二人は夢現のような心地で語り合い、やがて土地に纏わる厭な予感と、海辺で獅子舞に興じる子らの姿を目にする。日常と幻想が交錯する中、物語は彼らを見守る不穏な海へと繋がっていく。
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二十四
この雨は間もなく霽れて、庭も山も青き天鵞絨に蝶花の刺繍ある霞を落した。何んの余波やら、庵にも、座にも、袖にも、菜種の薫が染みたのである。
出家は、さて日が出口から、裏山のその蛇の矢倉を案内しよう、と老実やかに勧めたけれども、この際、観音の御堂の背後へ通り越す心持はしなかったので、挨拶も後日を期して、散策子は、やがて庵を辞した。
差当り、出家の物語について、何んの思慮もなく、批評も出来ず、感想も陳べられなかったので、言われた事、話されただけを、不残鵜呑みにして、天窓から詰込んで、胸が膨れるまでになったから、独り静に歩行きながら、消化して胃の腑に落ちつけようと思ったから。
対手も出家だから仔細はあるまい、(さようなら)が些と唐突であったかも知れぬ。
ところで、石段を背後にして、行手へ例の二階を置いて、吻と息をすると……、
「転寐に……」
と先ず口の裏でいって見て、小首を傾けた。杖が邪魔なので腕の処へ揺り上げて、引包んだその袖ともに腕組をした。菜種の花道、幕の外の引込みには引立たない野郎姿。雨上りで照々と日が射すのに、薄く一面にねんばりした足許、辷って転ばねば可い。
「恋しき人を見てしより……夢てふものは、」
とちょいと顔を上げて見ると、左の崕から椎の樹が横に出ている――遠くから視めると、これが石段の根を仕切る緑なので、――庵室はもう右手の背後になった。
見たばかりで、すぐにまた、
「夢と言えば、これ、自分も何んだか夢を見ているようだ。やがて目が覚めて、ああ、転寐だったと思えば夢だが、このまま、覚めなければ夢ではなかろう。何時か聞いた事がある、狂人と真人間は、唯時間の長短だけのもので、風が立つと時々波が荒れるように、誰でもちょいちょいは狂気だけれど、直ぐ、凪ぎになって、のたりのたりかなで済む。もしそれが静まらないと、浮世の波に乗っかってる我々、ふらふらと脳が揺れる、木静まらんと欲すれども風やまずと来た日にゃ、船に酔う、その浮世の波に浮んだ船に酔うのが、たちどころに狂人なんだと。
危険々々。
ト来た日にゃ夢もまた同一だろう。目が覚めるから、夢だけれど、いつまでも覚めなけりゃ、夢じゃあるまい。