ディカーニカ近郷夜話 前篇
本文約32,300字 ・ 読了時間 約65分
あらすじ(AIが作成しました)
ウクライナの村で、村長の息子レヴコーは恋人のハーリャと将来を誓い合うが、厳格な父親が結婚を認める気配はない。複雑な家庭事情や村の人間模様が交錯する中、不思議な出来事が重なり、若者たちは二人の明日へと思いを馳せる。夜が更けゆく中、月明かりに照らされた村は静寂に包まれ、レヴコーは眠る恋人の幸せを願いつつ、困難を乗り越えて結ばれる未来を信じて、聖なる夜の静寂の中に消えていく。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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とんとどうも分らない! 堅気な基督教徒が何かを手に入れようとして、まるで猟犬が兎を追つかけるやうに、あくせくとして骨を折つても、どうしても旨くゆかないやうな場合に、そこへ悪魔めが荷担して、奴がちよつと尻尾を一つ振らうものなら、もうちやんと天からでも降つてわいたやうに、ひよつこり望みの品が現はれてゐるのだ。
一 ハンナ
高らかな歌声が×××村の往還を川水のやうに流れてゐる。それは昼間の仕事と心遣ひに疲れた若者や娘たちが、朗らかな夕べの光りを浴びながら、がやがやと寄りつどつて、あの、いつも哀愁をおびた歌調にめいめいの歓びを唄ひだす時刻であつた。もの思はしげな夕闇は万象を朦朧たる遠景に融かしこんで、夢見るやうに蒼空を抱擁してゐる。もう黄昏なのに歌声はなほ鎮まらうともしない。村長の息子のレヴコーといふ若い哥薩克は、*バンドゥーラを抱へたまま、こつそり、唄ひ仲間から抜けだした。彼の頭には仔羊皮の帽子が載つてゐた。彼は片手で絃を掻き鳴らしながら、それにあはせて足拍子をとつて往還を進んでゆく。やがて、低い桜の木立にかこまれた一軒の茅舎の戸口にそつと立ちどまつた。それはいつたい誰の家だらう? 誰の戸口だらう? ちよつと息を殺してから、彼は絃の音に合はせて唄ひだした。
バンドゥーラ ギターに似た四絃琴で、小露西亜独特の楽器、我国の琵琶のやうに物語の吟詠の伴奏にも用ゐる。
お陽さま落ちて、ばんげになつた、
さあ出ておいで、恋人さん!