本文へ移動
TORENDIA

荒蕪地

本文約11,800字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

戦地の息子に借金の事情を書き送ろうとする農夫儀作は、土地の払下げによる困窮と、債権者からの冷酷な取立てに直面する。かつて関東大震災の復興に伴い、不毛地として無理に払下げられた土地の代金や、先代の借金を巡る法的な督促により、儀作は苦境に追い込まれる。家財を差し押さえられた彼は、愛馬を奪われ、苦渋の選択を迫られる中で、古くからの農家としての矜持と、生活を守るための現実の狭間で揺れ動く姿を描く。

犬田卯

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 16

一

「……アレは、つまり、言ってみれば、コウいうわけあいがあるンで……」

戦地から来た忰の手紙に、思いきって、いままで忰へ話さずにいたことを余儀なく書き送ろうと、こたつ櫓の上に板片を載せ、忰が使い残して行った便箋に鉛筆ではじめたが、儀作は最初の意気込みにも拘らず、いよいよ本筋へかかろうとするところで、はたと行詰ってしまった。……あれをどんな風に説明したら、うまく、納得がゆくものであろうか。

人手がなくて困るとか、肥料が不足でどうとか、かれこれ言われながらも、事変がはじまっていつか足かけ三年、二度目の収穫が片づく頃になると、心配していたほど、それほど米がとれなくもなかったし、人手不足もどうやら馴れっこになってしまった。事実、野良仕事など、やりよう一つでどうにでもなったし、肥料などに至っては、幾キロ施したから、それで幾キロの米の収穫があると決まっているものではなく、いくら過不足なく施したにせよ、その年の天候いかんによってはなんらの甲斐もないことさえあったのだ。

それはなるほど思う存分に施して、これで安心というまでに手を尽して秋をまつにしくはない。しかしながらそれでも結局は例の運符天符……そこに落ちつくのが百姓の常道で、まず曲りなりにでも月日が過ごせれば、それで文句は言えなかった。

家のことを心配して、時々小為替券の入った封書などをよこすのは、かえって百姓に経験の浅い忰の正吾の方だった。……あの借は払ったかとか、どれくらい米がとれたかとか、たといどんなに手ッ張ったにせよ、俺のかえるまで、作り田は決して減らすなとか、あの畑へは何と何を播けとか、そんなことまで細かに、よく忘れないでいたと思われるほどあれこれと書いてくるのだ。黙っていると何回でも、返事をきくまでは繰返して書いてくるので、儀作の方で参ってしまい、前後の考えもなく、洗いざらい、そのやりくり算段を報告した。

犬田卯の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本