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TORENDIA

死児変相

本文約39,900字 ・ 読了時間 約80分

あらすじ(AIが作成しました)

疎開先で暮らす母に対し、娘の千恵が姉の消息について手紙で報告する。東京で生きる姉の変わり果てた姿を目撃した千恵は、その体験をありのままに伝え、姉が既にこの世の人間ではないと感じつつも、現実の生活を生きてゆく決意を語る。本書は、戦争の影を背負った姉妹の絆と、生き残った者の抱える残酷な孤独を、千恵の視点から手紙という形式を用いて克明に描き出す物語である。

神西清

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母上さま、――

久しくためらつてゐましたこの御報告の筆を、千恵はやうやく取りあげます。

じつは姉上のお身の上につき申しあぐべきことのあらましは、もう一月ほど前から大よその目当てはついてをりました。だのに千恵は、「わからない、わからない」と、先日の手紙でも申しあげ、またつい一週間前の短かい手紙にも繰りかへしました。それもこれも嘘でした。いいえ、嘘といふよりむしろ希望のやうなものでした。つまり千恵は、お母さまがそのうちいつか忘れておしまひになりはしまいかと、それを心頼みにしてゐたのでした。けれど一昨日いただいたお手紙(それは途中どこかで迷つてゐたらしく、十日あまりも日数がかかつてゐましたが――)の様子では、忘れておしまひになるどころか、なまじ御報告を一寸のばしに延ばせば延ばすほど、却つてますます御不安をつのらせるだけらしいことが、千恵にもよくよく呑みこめました。三晩もかさねて、不吉な夢をごらんになつたのですね。それがどんな中身の夢だつたのか、お手紙には書いてありませんが、前後のお言葉から大よその察しのつかないものでもありません。そんな悪夢をまでごらんになるやうな母上を前にしては、千恵はもはや空しい希望を捨てなければなりません。それに、母上のあのお手紙をいただいたその明くる日――つまり昨日、まるで申し合はせでもしたやうに千恵がこの目であのやうなことを見てしまつた今となつては、もう何もかも有りのままに申しあげて、あとは宏大な摂理の御手に一切をおゆだねするほかないことを感じます。

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