TRENDIA CLASSIC
「はつ恋」解説
神西清
1 / 3
静かな深い憂愁が、ロシア十九世紀文学の特質を成していることは、今さら言うまでもなく周知の事実です。しかしその憂愁のあらわれは、それぞれの作家において、本質的にも色合いの上からも、微妙な差異を示しています。デンマークの文芸批評家ゲオルグ・ブランデスは、その点に触れて、次のような簡明ではあるが味わいの深い評語を、のこしています。――「ツルゲーネフの悲哀は、その柔らかみと悲劇性のすがたにおいて、本質的にスラヴ民族の憂愁であり、スラヴ民謡のあの憂愁に、じかにつながっている。……ゴーゴリの憂愁は、絶望に根ざしている。ドストエーフスキイが同じ感情を表白するのは、虐げられた人々、とりわけ大いなる罪びとに対する同情の念が、彼の胸にみなぎる時である。トルストイの憂愁は、宗教的な宿命観にもとづいている。そのなかにあって、ツルゲーネフのみが哲人である。……彼は人間を愛する。よしんばそれが、あまり感服できぬ人間で、たいして信用のおけぬ場合でも、やはり彼は人間を愛するのだ」
つまり、ツルゲーネフの憂愁は、「哲人的な」憂愁であったということで、そこから、彼の一見ひややかにさえ見える詩的なリアリズムも、滅び交替しゆく者にたいする抒情的な愛も、おのずから説明がつくわけです。そういう点から言うと、ツルゲーネフに最も近いロシア作家は、十九世紀末に現われたチェーホフであると言えるのですが、この比較は一応それとして、彼らの憂愁が一体どこに根ざし、どういうところから特異な形成を遂げたかが、ここでは問題になるでしょう。
神西清の他の作品
TRENDIA CLASSIC
青いポアン
神西清
青いポアン
神西清
TRENDIA CLASSIC
「あかい花 他
四篇」あとがき
神西清
「あかい花 他四篇」あとがき
神西清
TRENDIA CLASSIC
恢復期
神西清
恢復期
神西清
TRENDIA CLASSIC
鸚鵡
神西清
鸚鵡
神西清
TRENDIA CLASSIC
「可愛い女 犬
を連れた奥さん
他一編」あと
がき
神西清
「可愛い女 犬を連れた奥さん 他一編」あとがき
神西清
TRENDIA CLASSIC
きれぎれの追憶
神西清
きれぎれの追憶
神西清
TRENDIA CLASSIC
化粧
神西清
化粧
神西清
TRENDIA CLASSIC
ジェイン・グレ
イ遺文
神西清
ジェイン・グレイ遺文
神西清
TRENDIA CLASSIC
春泥
神西清
春泥
神西清
TRENDIA CLASSIC
地獄
神西清
地獄
神西清
TRENDIA CLASSIC
少年
神西清
少年
神西清
TRENDIA CLASSIC
死児変相
神西清
死児変相
神西清