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TORENDIA

夜の鳥

本文約15,000字 ・ 読了時間 約30分

あらすじ(AIが作成しました)

終戦後、軽井沢の別荘に旧友たちが集い、音信不通であった工科出身のGと再会する。かつて山岳部に所属し、建築家として満洲へ渡ったGは、孤独な面影を残しつつも淡々とした態度を崩さない。仲間たちは、Gが旅先で遭遇した謎の女性と、音信不通の留学生・魏怡春との意外な関わりを示唆する出来事を通じて、長年隠されていたGの胸の内に秘められた想いに触れることとなる。

神西清

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去年の夏のことだ。

H君夫妻が、終戦後はじめて軽井沢の別荘びらきをするといふので、われわれ旧友二三人が招かれたことがある。そのなかに、久しぶりでわれわれの前に姿をあらはしたG君もゐた。これは思ひがけなかつた。

われわれ仲間といふのは、ほんの高等学校の頃に同室だつただけの関係なのだが、そんな漠然とした若い時代の友情が、めいめい別れ別れに大学へ進んでからも、やがて社会へ出てからも、案外そこなはれずに続いてゐたのである。

同勢は六人ほどで、文科系統が多かつたけれども、G君は工科だつた。もう一人、魏さんといふ山東出身の留学生がゐて、これは医科だつた。のつぽといつていいくらゐ背の高い男で、とつつきの悪い不愛想なところがあつたが、実は飃々とした楽天家で、案外すみに置けない粋人でもあつた。魏怡春といふ名前が、まさに体をあらはしてゐたわけである。

そんな彼に、われわれはよく甘えたり、罪のない艶聞をからかつたりしたものだ。大学を出ると長崎へ行つて、はじめは医大につとめ、やがて開業した。日本人の細君をもらつたとかいふ噂もあつたが、そのへんから段々消息がぼやけて来て、まもなく戦争になつた。山東へ帰つたらしいと、誰いふとなしにそんな風聞も伝はつたが、確かなところは分らなかつた。もし帰つたとすれば、彼の運命は果してどうなつてゐるだらう。無事で、若白毛がますます霜を加へて、相変らず飃々としてゐるだらうか。……われわれはまづ、そんなことを噂し合つた。

G君は、われわれの仲間では唯一人の山岳部員だつた。かと云つて先頭に立つて賑かに音頭をとるのではなく、むしろ黙々として小人数で沢歩きをするといつた風であつた。一度など、単身で雨あがりのザンザ洞へいどんで、トラヴァスの失敗から人事不省になつたことさへある。まだ沢歩きが今ほどはやらない時分のことだから、木樵り小屋の人がひよつこり水を汲みに降りて来なかつたら、とつくにGは白骨を水に洗はれてゐたに相違ない。……そんな経験のあつたことを、われわれ仲間でさへ余程あとになつて、彼が何首かの歌に歌ひこむまでは、さつぱり知らずにゐた始末だつた。

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