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TORENDIA

寒桜の話

本文約3,700字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

カンザクラの特性や上野公園でかつて試みた植栽の経緯、および熱海での観光資源としての活用策を綴る随筆。開花が早く珍重されるこの桜を、公園の風景に趣を添える目的で親木から接ぎ木し、さらにオオヤマザクラを導入した際の当時の苦心と現状への懸念を記す。後半では、寒桜と緋寒桜を暖地である熱海に群栽させ、赤白の景観を作り出すことで地域振興を図るべきという筆者の提案と、現状の植栽方法への改善案を説く。

牧野富太郎

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カンザクラというサクラの一種があって、学名をプルーヌス・カンザクラ(prunus Kanzakura, Makino)と称する。落葉喬木で多くの枝を分かち、繁く葉をつける。高さはおよそ一丈半くらいにも成長し、幹はおよそ一尺余にも達する。

このカンザクラは、ふつうのサクラよりはずっと早く開花する。寒いときに早くも花が咲くというので、寒桜の名がある。彼岸ザクラに先だち、すなわち二月には花がさくので、ふつうのサクラの先駆けをする。しかし東京では寒気のためにその花弁が往々傷められがちであるが、駿州辺のような暖地ではまことにみごとに開花する。

東京ではかの荒川堤に二、三本あって、よく花が咲きおったが、私ももはや久しく同堤へ行かないから、今日果してそれがどうなっているか分からない。それはかなり大きな樹であったため、たぶん今日でもなお存しているであろう。しかし同堤の桜樹のようにだいぶ弱っていはせぬかと想像する。

東京上野公園内、東京帝室博物館の正門を入ったすぐ正面より少し右の地点にカンザクラの老樹一本があって、毎年花が咲くとよくその写真が新聞紙上に出て、上野公園のヒガンザクラが咲いたとその名を間違えて書いてあった。

公園唯一のこのカンザクラは、今日はその樹がどうなったか、ここも私は久しく行かぬゆえ今その辺の消息が分からないが、大震災後同館内もだいぶ変わったから、今日では果してそれがどうなっているか、安全? 異変があった? そこへ行ってみれば分かることだが、もしも旧来からの場所に見えないとならば、この名樹は今どこへ移されたか、あるいはむざんに切られたか、それを突き止めてみたい気もする。

右博物館内のこのカンザクラについては、ここに左の話を書き残しておかねばならぬことがある。このカンザクラは私にとっては思い出の深い一樹であるからである。

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