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TORENDIA

カキツバタ一家言

本文約5,600字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

植物学者である著者が、日本に自生するカキツバタの形態や生態、語源、歴史的変遷を考察する。古歌や文献を引きながらその優雅な美しさを紐解く一方、日本古来の植物名に誤った漢名が当てられ続けている実態を厳しく指摘する。特に「杜若」や「燕子花」と混同される植物の誤りを、自らの知見と植物学的な観察に基づき論じ、外来の漢字に頼らず仮名で植物を表記すべきであるという持論を力強く展開する評論である。

牧野富太郎

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🎧 カキツバタ一家言 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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花がつみまじりにさけるかきつばたたれしめさして衣にするらん   公実

狩人の衣するてふかきつばた花さくときになりぞしにけり      基俊

カキツバタはだれもよく知っているアヤメ科イリス(Iris)属の一種であって、Iris laevigata Fisch. の学名を有する。シベリア、北支那方面からわが日本に分布せる宿根草で、水辺あるいは湿原に野生し、わが邦では無論かく自生もあれど、通常は多くこれを池畔に栽えてある。

この草は冬はその葉が枯れて春に旧根から萌出し、夏秋に繁茂する。根茎は横臥し分枝し、葉は跨状式をなして出で、剣状広線形で尖り鮮緑色を呈して平滑である。葉中に緑茎を抽いて直立し一、二葉を互生し、茎頂に二鞘苞ありて苞中に三花を有し、毎日一花ずつ開く。花は美麗な紫色で外側の大きな三片は萼で、それが花弁状を呈し、その間に上に立っている狭い三片が真正の花弁である。萼片の柄の内側に一つの雄蕋があるから、つまり雄蕋は一花に三つあるわけだ。そしてその葯は白色で外方に向かって開裂し花粉を吐くのである。中央に一花柱があって三つに分れ、その枝は萼片の上により添うて葯を覆い、その末端に二裂片があってその外方基部のところに柱頭がある。この花は虫媒花であるから昆虫によって媒助せられ、雄花の花粉を虫が柱頭へ付けてくれる。そして子房は花の下にあっていわゆる下位子房をなし、花後に果実となりついにそれが開裂して種子を放出し、枯れた実は依然として立っている。カキツバタは紫花品がふつうであるが、またシロカキツバタという白花品もあれば、またワシノオと呼ぶ白地へ紫の斑入り品もある。そして本種は同属中で最もゆかしい優雅な風情を持っていて、その点はまったく同属中他品のおよぶところではない。さればこそ昔から歌や俳句などで決してこれを見逃していないのは、尤もなことだと思われる。

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