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TORENDIA

ながうた勧進帳

本文約12,400字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

坂東堀にある三階建ての住居で長唄の師匠である杵屋花吉と母が暮らしている。ある陰気な日、お稽古に訪れた弟子たちが二階の稽古場から聞こえるはずの三味線の音や師匠の様子に違和感を抱く。やがて師匠の異変が発覚し、警察の取り調べが行われる中で、お稽古の場に居合わせた光子やその恋人の健、菓子屋の幸吉らによる、師匠を巡る隠された人間関係と不可解な状況が浮かび上がり、事件の真相について様々な推論が語られる。

酒井嘉七

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一

師匠の名は杵屋花吉と申されました。年は二十三、まだ独身でございました。何んでも、七つか、八つの時から、長唄のお稽古を始められたのだそうでございまして、十七の春には、もう、立派な名取さんであった、というのでございますから、聡明なお方には、違いなかったでございましょう。

しかし、それにいたしましても、あの傍の見る目もいじらしい程な、お母さんのきついお仕付けがございませんでしたならああも早くから、お師匠さんにはなれなかったに相違ございません。お母さんにしてみますれば、何んでも一人前の師匠にしてやりたいと思う、親心からのお仕付けに違いなかったのではございましょうが世間の口は煩いものでございまして、人の子であればこそ、ああまでも出来たもの、自分の腹を痛めた子供であれば、いくら心を鬼にしても、あれだけのお仕込みはできますまい、等と噂していた様でございます。

師匠はすっきりとした身体つきの、とても美しいお方でございました。睫毛の長い、切れ長の眼に少し険があると云えばいえますものの、とても愛嬌のある子供子供したお方でございました。何しろ、お母さんが頼りにしていられる唯一人の娘さんでございますから、それはもう、文字通りの、箱入り娘でございまして、どこへ行かれるのにも、お母さんがついて行かれ、決して、一人歩きはおさしになりませんでした。そうした理由からででもございましょうか年頃になられましても、浮いた噂とて一つもなく、しごくおとなしいお方でございました。

お弟子の方は十二三人もございましたでしょうか。その内三四人が男の方、他は皆、女とお子供衆でございました。お稽古を始められた最初の内は、男のお弟子さんは断られていた様でございました。それと申しますのも、何分にもお師匠さんが年頃のお娘御、若い男のお弟子さんと、変な噂でも立てられる様なことがあってはと、心配されていたからでございましょう。しかし、何時のまにか御近所の方で断り切れずとか、お知り合いの方だから、といった風で、男のお弟子さんも、時としては、四五人もあったのでございました。

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