近況
本文約550字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
友人によって山のぼりをしたと誤解された著者は、裏山でのささやかな山遊びについて釈明する。冬の訪れを感じる中、体調が小康状態にある著者は、農家の垣根に咲く黄色の菊を枕元に活け、その香りに包まれながら微睡む日々を送る。秋の半ばから続く静かな療養生活の中で、古の唐詩の一節を思い出し、花の香りと共に深まる自身の心境を綴る随筆である。
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神西君が僕のことを山のぼりなどしたやうに書いたものだから、みんながもつと身體に氣をつけて、あんまり無茶をしないやうにといつてよこす。この五月の末ごろの或る温かい日、家のものたちと裏の山への芽をとりにいつて、つい氣もちがいいまま、二三時間山で過ごした。――そんなちよつとした山あそびが、いつか僕の山のぼりとなつて友人たちの間に傳はつたわけだ。それが僕のからだに祟つたのでもなからう。わが茅屋の裏にささやかな流れがある。その向うがもうすぐ林で、そこへ薪をとりにゆくのでも、ふだん「山へいつて……」といふぐらゐな土地柄だから、山などといつてもどうぞ恐ろしがらずにゐてほしい。
もう冬に入りかけてゐる。秋の半ばごろから、僕もやや小康を得てゐる。もうすこしぢつと辛抱してゐたら、おひおひ快くなるだらうと思ふ。この頃、菊の花ばかりつづけて、さう三囘ほど、人に貰つた。このへんの農家の籬などにむざうさに咲いてゐる、黄いろい、こまかな花である。これが今年の最後の花だらう。それを枕もとに活けさせて、その下で、僕はなんだか一日中うつらうつらと睡つてゐることがおほい。さうしてときどき目をさましては、ふとその花の香におどろく。
一身憔悴對花眠
むかし讀んだ唐詩のそんな一句が、いまさらのやうに蘇つてきて、胸にしみこむやうな氣がする。
完