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TORENDIA

牛を調弄ふ男

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

喫茶店を巡回し紋切型の挨拶を繰り返す少女の言動に、安永は不可解さと興味を抱く。安永は度々その店に通い、少女を弄ろうと試みるが、差し出された手紙を読み、気まぐれな空しさを覚える。店を出て街を歩き回った彼は、砂利道で牛に出会い、その頤を摩るなどの親愛の情を示すことで、孤独な日常から逃れようとする。本作は、都会の片隅で奇妙なやり取りを繰り広げる男と少女、そして偶然遭遇した牛との関わりを描く。

原民喜

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🎧 牛を調弄ふ男 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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その少女は馬鹿なのか善良なのか、とにかく調子はづれの女だった。それにその喫茶店の制度が、一々客のテーブルの側を巡回させて、「いらっしゃいませ、今日は誠に結構なお天気で御座います。」と御機嫌伺ひをやらせるのだから少し変ってゐた。誰だってこんな所へ本気で来る筈はないと安永は思った。その彼だっていい齢をして何が面白くてこんな場所に来るのか解らなかった。が、三日その少女を見ないと何だか物足らないし気になる程安永はよく其処へ行った。

その日、安永は月給を貰って吻とした軽い気持で其処のドアを押した。

「いらっしゃいませ、今日は誠に結構なお天気で御座います。」少女は紋切型をとり澄ました態度で無表情に述べた。

「エヘヘヘ」

安永は何時もなら怺へてゐるところを最初から噴き出した。が、少女は一寸もそんなことで気持を損ねた容子もなく首を一寸斜に傾げながら、

「あの何をお召し上りになりますか。」と静々と伺ふのだ。

「左様で御座いますなあ、えーと、あ、さうだ、ヨーヨーはないかね。」

「かしこまりました、伺って参ります、暫くお待ち下さい。」

少女の去った後で安永は思はず舌を出した。何ぼ何でも何時もながらあんまりひどい。一体この女は正気なのか、間抜けなのか。世智辛い都会の真中で、これはあんまり悠長過ぎはすまいか。尤ももしかすると相手はこいつを売りものにしてゐるのかも知れないが、さうだとすると一寸薄気味が悪い。安永はこれまで自分の接した数々の女と彼女とを比較してみたが、比較にならぬ程その少女はまだ稚かった。

「あの御生憎様、ヨーヨーは御座いません。」

「そいつは残念だなあ。」

安永はもう一度彼女を調弄ってやらうかと思ったが、少し気の毒になった。

「だったら紅茶でもくれ給へ。」

間もなく紅茶が運ばれて来ると、

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