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TORENDIA

霧

本文約1,400字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

ある下宿屋の四畳半で、三人の男が議論を交わしている。小さな眼の男は人類の撲滅を説き、大きな鼻の男は人類を肯定する思想を抱く。二人の意見は度々対立し、神経質な男は議論の傍観者に徹する。夕方、街を覆う霧の中で男達の気持も重苦しくなり、三人は当てもなく街を彷徨う。やがて支那そば屋で温かい湯気に囲まれた彼らは、そこで女給たちの無邪気な仕草を目にし、期せずして笑い声を上げる。

原民喜

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🎧 霧 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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何処かの邸の裏らしい芝生の傾斜が、窓のところで石崖になってゐた。窓からその傾斜を眺めると、針金を巡らした柵のあたり薄の穂が揺れてゐて、青空に流れる雲の姿が僅かに仰がれた。そこは色彩のない下宿屋の四畳半で、三人の男がくつろいだ姿勢で、くつろぎすぎた時間をやや持て余してゐた。とは云へ三人が三人同じ気分に浸れるのは、議論の果ての退屈に限った。

彼等は逢へば始め必ず議論をしたが、勝手な言葉と世界観の相違のため、何時も話は途中から喰ひ違って、傍から観るとまるで喧嘩をしてゐるやうであった。小さな眼をした男は薄い唇を自在に動かして、大きな鼻をした男の攻撃に応じるのだった。彼は人間最大の不幸は死の恐怖であり、人類の続く限りこれは消滅しないから、一刻も早く全人類を撲滅さすに限ると云ふ、ややシヨウペンハウエル流の考へを抱いてゐた。ところが彼に食ってかかる方の男はウパニシャットを愛誦し、たとへば富士山の崇高を仰ぐやうな気持で、人類諸君を肯定的に見渡してゐるのであった。二人の議論にはあまり加はらないで、まづさうに煙草を吸ふ神経質の男は、この男は両方へ味方しながら両方へ反対する、つまりソフィストであった。

今日も些細なことを発端として、小さな眼をした男と大きな鼻をした男との意見は結局一致しなかったが、そのため大きな鼻の男の方がより不機嫌な顔をした。すると小さな眼をした男は議論をこの辺で打切る積りで、詠嘆的な調子で、

「しかし、僕はこの二三日フロイドのトーテムとタブウを読んでるが、フロイドはいいね。一つ一つ胸に思ひあたることだらけだよ。」と云った。すると大きな鼻をした男は如何にも我が意を得たやうな顔で、

「君もさう思ふのかい。」と云って、今度は頻りにフロイドの話であった。

そのうちに精神分析の話がだらけて、ほんとの冗談になって来ると一番にソフィストが口をきいた。

「君達だって今にのうのうと女房持って収まるとよ、オイ、葱を買って来給へよ、なんて云ふのだらうね。」

すると眼の小さな男は鼻の大きな男の口真似をしながら、

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