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TORENDIA

妙義山の五日

本文約13,600字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

老いを自覚し始めた筆者は、健康と体力の回復を試みるため、割引切符を利用して群馬県の妙義山へ向かう。白雲・金洞・金の三山から成る奇峰の山々を、案内者を伴いながら五日間にわたり登頂する。かつて十八年前に訪れた際は所持金に苦しんだ地を再訪し、石門の奇観や相馬嶽からの壮大な眺望に感動する。困難な下山路を含めた登山の全過程を通じて体力の衰えを克服したと実感し、名山の魅力を記す。

大町桂月

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一

むかし取つたる杵柄、如何なる嶮山でも、何の糞と侮りて、靴穿きたるまゝ、洋服のづぼんもまくらず、即ち別に毫も旅仕度せずに、山にのぼりしが、心ばかりは、むかしにて、十年來、自墮落にもちくづしたる身體の力は、もとのやうにも無し。膝關節疼痛さへ起すこと多きに、あゝわれは既に老いたるか、もはや高山に上る能はざるかと、自から歎息せしが、いや/\まだ老い込む年でも無し。慣らさば、昔の如くにならむ。むかしの如くにならずとも、十分の八までにはならむ、殊に脚袢をつけ、草鞋をはき、づぼんをまくりて、膝關節をらくにせば、疼痛は起らざらむ、よしや起りかゝるも、用心して、水にて冷やさば、之を免れむ。よし/\一つ試みて見むと、思ひたてば、矢も楯もたまらず。殊に氣澄み天高き小春の好時機也。旅行の決心は、金鐵よりもかたし。行先の如きは、末節也。必ずしも妄りに選擇するを要せず。されど、大體の見當は碓氷、妙義あたりとつけたり。五日間通用の出來る割引切符を利用せむとする也。

何時の汽車に間にあはせて、何時に先方へ着かねばならずなどと、窮屈なる制限もなければ、心ものびやか也。四谷見付にて、街鐵線の電車より外濠線のに乘りかへむとするに、來たることおそし。來り待つもの、次第に増す。朝は何時よりといふ制限のある、つとめの人々にや、いづれも不安心なる顏付をして、電車の來る方を見つむ。電車漸く見え出したり。衆と共にしては、乘りきれずとや思ふらむ、顏に覺えのある文學博士、電車のまだ止まらぬ先より飛び乘らむとして、手だけは電車につかまりたるも、脚は之に伴はず、しばし引きずられ、漸く車掌に引つぱり上げられたり。つとめの身の心せくまゝに、かゝる滑稽も、しでかすならむと、氣の毒也。乘り切れねば、あとの電車にと、思ひ定めしが、餘地がありさうなれば、乘りて見たるに、餘地も十分の餘地、腰かくることさへ出來たり。

上野驛にて一時間餘も待ち、高崎驛の乘換にも、一時間待ち、松井田驛に下車し、一里餘を徒歩して、日くるゝ頃、妙義町につきて、東雲館にやどりぬ。

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