本文へ移動
TORENDIA

新武蔵野の桜

本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

新宿の追分から京王線に乗り、裸男と十口坊は玉川上水沿いの箒銀杏を眺めながら歩を進める。道中で酒の肴の干鱈を買い求め、さらに上流の吉野桜が咲き誇る新武蔵野を訪れる。世間にあまり知られていないこの地で、二人は芝生に腰を下ろし、焚火で干鱈をあぶって瓢箪の酒を酌み交わす。小金井へ至る道中での情景や、その後の宴会で詠んだ漢詩を織り交ぜながら、春の散策の様子を綴る。

大町桂月

速度
🎧 新武蔵野の桜 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

相手は變れど、主は變らず。昨、夜光命の手にせし四合入の瓢箪、今日は十口坊の手に在り。裸男は例の三合入の瓢箪を手にして、新宿の追分より、京王電車に乘る。線路をはじめは甲州街道に沿ひしが、やがて舊玉川上水に沿ふ。沿ふより間もなく、天神橋の手前の右に近く可なり大なる銀杏あり。凡そ二抱へもあらむと思はるゝ一本の幹の、二三丈上よりは、數十百條となりて直立す。裸男、十口坊を顧みて、『あれ見よ、一種無類の銀杏に非ずや』と云へば、『然り/\』と云ふ。『竹箒に似たらずや』と云へば、『當れり/\』[#「『當れり/\』」は底本では「『當れり/\」]と云ふ。『箒銀杏と命名したらば如何に』と云へば、『好からむ』と云ふ。『そこで一首、

名にしおはば都の空のちりほこり

箒銀杏の掃くよしもがな

この歌はどうだ』と云へば、何とも答へず。

笹塚に下りて、甲州街道を行く。酒は瓢に在り。何か肴なかるべからずとて、目を兩側に注ぎつゝ行きしに、一店に小さき干鱈あるを見付く。『あれはどうだ』と云へば、好物の干物、もとより異議なし。價を問へば、僅に四錢、白銅貨一つにて、一錢餘る。今一錢足して、干鱈と佃とを買へり。

大町桂月の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本