季節の馬車
本文約15,800字 ・ 読了時間 約32分
あらすじ(AIが作成しました)
佐藤惣之助が千九百二十二年に綴った詩集。日本を東洋の冒険航海家と位置づけ、欧州の文化模倣を脱し、日本独自の精神と芸術による文芸復古を提唱する序文を掲げる。本編は四月の村々を巡る旅の中で、自然の光や影、移ろう季節、そして古都の歴史的記憶を鋭い感性で描き出す。自身の作風の過渡期における短章として、次なる海洋詩集への歩みとなる春と夏の情景を、叙情豊かな言葉で綴る。
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飛雄する東部亞細亞人の爲めに
われわれは今やらなければ駄目だ。東半球の太平洋の藝術家として、青青とした若い日本人として、あたらしい神神と民族との史詩や大きい祝祭の、精神的な戰ひを。そして殊に日本人が「飛雄する東部亞細亞人」のために、南部東洋の島島の娘等のために、又は北部亞細亞大陸の若者のために、まだヨーロツパ人の捉へる事の出來ない大太平洋の波濤のページに、あたらしい豪華な景觀と高遠なる史詩や劇詩を書き、日の出づる美の海洋線を清め、王政復古のやうに、昔の榮華を盛りかへし獨自の艤裝を凝らして世界の港へ出帆しなくてはならない。
西部東洋の土耳古・阿剌比亞・波斯・印度等はヨーロツパにやられた。精神も神神も娘子供まで征服された。新月と黄昏の國は亡びた。しかし古いわれわれの荒磯や島や黒潮帶は犯されぬ。われわれは目が醒めた。早くヨーロツパの電線や瓦斯や機械をめいめいの感覺や精神からはづすがよい。そしてもう一度野生にかへつて[#「かへつて」は底本では「かへって」]太平洋を祭り、日と曙と波濤の中から、未來の善美や眞實なる藝術を生め! 日本はその冒險航海家の第一人者となる必要がある。それでなければ支那やフイリツピン人の下に立たなければならぬ。それでは駄目だ。この東洋の最端にゐるわれわれは海と嵐の荒磯の子だ。決して巷の漂流人や草原の牧羊者ではない。われわれは漁夫の子だ。百姓の船員の、そして太平洋の無名の靈の子だ。われわれはヨーロツパの教化を受けたくない。徒に外國語の説明者になりたくない。佛蘭西人の流派に從ひたくない。
ほんとうにわれわれはやらなければ駄目だ。一代も二代も通して東洋文藝復古期をつくり、ヨーロツパと戰はなければ、東半球の南北にかけて、どんなに未知な靈と力とが、波濤と岩との間にかくれてゐるか、眞の黄金期が埋もれてゐるか。毎日の曙と花と天とを見てもすぐ感じられる筈だ。それでなくては大太平洋もこの蒼古な美しい國土もわれわれに與へられてはゐない筈だ。
千九百二十二年夏
佐藤惣之助
青艶
四月の朝燒けにすき透り眼を染めて
竹の林をあるくわかわかしい靜かなはなやかさ
うす紫の影を吹きわけいづる八重葎と春百合の