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TORENDIA

山のホテル

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

金剛山の長安寺に設けられた風変わりなホテルを舞台に、満鉄社員が運営するその環境と日常を綴る。客の来ない山中で、夕方に平康から到着する自動車を唯一の楽しみとして待つ職員たちの様子や、山へと続く道中で目にした朝鮮の風景や人々との出会いを描写する。山中の隔離された空間で、外部との接点を待ち望む人々の心象と、そこに至るまでの旅の情景を鮮やかに描き出す作品である。

田山録弥

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🎧 山のホテル / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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金剛山にある二つのホテル、中でも長安寺にあるものは面白い。ホテルと名には呼ばれてゐても、大きな建物があるではなく、長安寺の一部を借て、僧房を仕切て、それに No, 1 とか No, 2 とか番号をつけてゐる。そこに無造作に寝台と卓子とが置いてある。食堂と言つても、いくらか大きい僧房に二つ三つ卓子を配置してそれに晒布をかけただけである。そしてそこにゐる人達が面白い。ボーイもコツクも支配人も番頭も皆満鉄の社員で、六月から十一月ごろまで、客が来やうが来まいが、さびしからうがさびしくなからうが皆役目で来てゐる。上さんを伴れて来てゐるものも中にはあるが大抵はひとりである。何と言つても汽車の線路から三十里も山の中に入るのだから、たとへ自動車が通つてゐるにしても、女を伴れて来るのは大変である。で、大抵はひとりでゐる。それを目蒐けて朝鮮の女が酒を売りに来るといふ話である。しかしそれは私は知らない。

従つてホテルの人達は旅客の来ることを非常に喜ぶ。毎日夕方になると、唯一の交通線である平康からの自動車が疲れた旅人のやうに微な爆音をあたりの翠微に震はせながら、白い埃塵に包まれて入つて来るが、それを聞くと、支配人もコツクもボーイも誰も彼も皆その周囲に集つて行つて、何等かの期待をそれに持つのである。旅客が一人でもその中に入つてゐれば無論双手を挙げて喜んで歓迎するが、それがなくとも、或は妻からの手紙、恋人からの手紙、でなければ葡萄酒の一罎、変つた缶詰の一包をそこに期待するのを毎日の唯一の楽みとしてゐるのである。丁度絶海の孤島の船着に時をきめて入つて行く汽船を待つ人達のやうに。

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