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TORENDIA

江戸芸術論

本文約83,800字 ・ 読了時間 約168分

あらすじ(AIが作成しました)

西洋文明の模倣により伝統的な日本文華が失われる状況に対し、著者は痛切な悲しみと憤りを抱く。都市の近代化の中で古蹟が破棄される一方、かつて政府の迫害を受けながらも平民の気風を反映して発達した浮世絵に、著者は精神的な慰藉と、官営芸術に対抗する自由な表現の勝利を見出す。本作は、過去の文学や美術を通じて江戸時代の平民の生活を偲ぶとともに、現代社会の風潮を冷静に観察し、消えゆく江戸演劇の保存の価値を論じる。

永井荷風

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浮世絵の鑑賞

一

我邦現代における西洋文明模倣の状況を窺ひ見るに、都市の改築を始めとして家屋什器庭園衣服に到るまで時代の趣味一般の趨勢に徴して、転た余をして日本文華の末路を悲しましむるものあり。

余かつて仏国より帰来りし頃、たまたま芝霊廟の門前に立てる明治政庁初期の官吏某の銅像の制作を見るや、その制作者は何が故に新旧両様の美術に対してその効果上相互の不利益たるべきかかる地点を選択せしや、全くその意を了解するに苦しみたる事あり。余はまたこの数年来市区改正と称する土木工事が何ら愛惜の念もなく見附と呼馴れし旧都の古城門を取払ひなほ勢に乗じてその周囲に繁茂せる古松を濫伐するを見、日本人の歴史に対する精神の有無を疑はざるを得ざりき。泰西の都市にありては一樹の古木一宇の堂舎といへども、なほ民族過去の光栄を表現すべき貴重なる宝物として尊敬せらるるは、既に幾多漫遊者の見知する処ならずや。然るにわが国において歴史の尊重は唯だ保守頑冥の徒が功利的口実の便宜となるのみにして、一般の国民に対してはかへつて学芸の進歩と知識の開発に多大の妨害をなすに過ぎず。これらは実に僅少なる一、二の例証のみ。余は甚しく憤りきまた悲しみき。然れども幸ひにしてこの悲憤と絶望とはやがて余をして日本人古来の遺伝性たる諦めの無差別観に入らしむる階梯となりぬ。見ずや、上野の老杉は黙々として語らず訴へず、独りおのれの命数を知り従容として枯死し行けり。無情の草木遥に有情の人に優るところなからずや。

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