本文へ移動
TORENDIA

水のながれ

本文約2,000字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

市川に居を移した著者が、東京へ向かう折にたびたび渡る隅田川の変貌を綴る。震災を機に消滅した土手や渡し船、風情のあった待乳山周辺の町並み、そしてセメントで固められ自動車が往来する現在の風景を回想する。かつての古雅な名所が伝説とともに失われたことへの嘆きと、今なお欄干に寄り添い、濁った川の流れに寄せて往時を空想する喜びを記す。変化した都市の姿を辿りつつ、変わらぬ秋の夕暮れの情緒を重ね合わせた随筆である。

永井荷風

速度
🎧 水のながれ / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

戦争後、市川の町はずれに卜居したことから、以前麻布に住んでいた頃よりも東京へ出るたびたび隅田川の流れを越して浅草の町々を行過る折が多くなったので、おのずと忘れられたその時々の思出を繰返して見る日もまた少くないようになった。

隅田川両岸の眺めがむかしとは全然変ってしまったのは、大正十二年九月震災の火で東京の市街が焼払われてから後の事で、それまでは向嶋にも土手があって、どうにか昔の絵に見るような景色を見せていた。三囲稲荷の鳥居が遠くからも望まれる土手の上から斜に水際に下ると竹屋の渡しと呼ばれた渡場の桟橋が浮いていて、浅草の方へ行く人を今戸の河岸へ渡していた。渡場はここばかりでなく、枕橋の二ツ並んでいるあたりからも、花川戸の岸へ渡る船があったが、震災後河岸通の人家が一帯に取払われて今見るような公園になってから言問橋が架けられて、これは今戸へ通う渡しと共に廃止された。上流の小松島から橋場へわたる渡船も大正の初めには早く白鬚橋がかけられて乗る人がなくなったので、現在では隅田川に浮ぶ渡船はどこを眺めても見られなくなった。

永井荷風の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本