TRENDIA CLASSIC

志士と経済

服部之総

1 / 15

幕末に取材する大衆文芸は一部志士文芸(?)でもあるが、志士活動の基底にどんな社会経済が横たわっているのかはっきりしないものが多い。股旅物、三尺物の主人公が何で食っているかはいかにもはっきりしているが一歩すすんで、彼らの生活の物質的な地盤となっている社会経済――いわゆる旦那衆を構成する特定社会層の本質となると描かれていることがもう稀だ。筋の波瀾と離合のからくりが、いつかつくりばなしめいて感じられ、現実性と迫力を失ってしまう一半の原因は、そこらへんからくるのではあるまいか。

本来、志士なるものが大量的に登場するのは、安政以来のことで、万延・文久度のほうはいたる行動期となって、真木和泉『義挙三策』に見るように、みずから「義徒」と呼んだ。もとよりさまざまな出身で、一概にいえぬが、大量的支配的な現象として、無位無官「草莽」志士の地盤には、全国諸地方の新興産業商業の勢力が、脈々として息づいている。

この謂は、ことに初期の志士その人が多く文人学士で、時にひどい貧乏に耐えていた事態と、べつに背馳するわけでない。無産者運動の草分が小ブルジョア層から出たように究局は社会的な深い矛盾が、諸個人の思想と行動を乗せてゆくので、貧乏かくごで藩権にも幕権にもあえて屈しようとせぬ面魂が、そもそも物をいっているのである。

服部之総の他の作品