本文へ移動
TORENDIA

合本三太郎の日記 序

本文約930字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

三十代の前半期を綴った三太郎の日記について、第一と第二に続く第三を加え、唯一の形として合本にまとめる。著者は自身の告白や思索を書き連ねたこの形式の文章を公開することに区切りをつけ、過去を葬るために本書を編纂する。内容には自らの閲歴や空想、同情が含まれるが、あくまで三太郎という人格を通した芸術作品であると表明する。これまで出版された二書を絶版とし、以後は本書のみをこの記録の完成版として残すことを意図する。

阿部次郎

速度
🎧 合本三太郎の日記 序 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

三太郎の日記を永久に打切りにするために、從來公にした第一と第二との本文に、その後のものを集めた第三を加へて、此處に此の書を出版する。三太郎の日記は三十代に於ける自分の前半期の伴侶として、色々の意味に於いて思ひ出の多いものである。併しこの書を通讀する人が行間に於いて看取するを得べきが如く、自分は次第に此の類の告白、若しくは告白めきたる空想及び思索をしてゐるに堪へなくなつて來た。自分は最早永久にこの類の――篇中に於いて最も日記らしい體裁を具備する――文章を公にすることがないであらう。さうして後年再び告白の要求を痛切に感ずる時期が來ても――自分は早晩此の如き時期が來ることを豫想する――此の如き形式に於いてそれをすることは決してないであらう。故に自分は、自分の生涯に於ける此の如き時期を葬るために、又過去現在並びに――將來に渉つて自分のこの類の文章を愛して呉れ、若しくは愛して呉れるであらうところの友人に親愛の意を表はすために、Volksausgabe の形に於いて茲にこの書を殘して置く。

三太郎の日記は三太郎の日記であつて、その儘に阿部次郎の日記ではない。況して山口生によつて紹介されたる西川の日記が阿部次郎の日記でないことは云ふまでもない。此等の日記がどの程度に於いて私自身の日記であるか。此の如き歴史的の閑問題も、後世に至つて或は議題に上ることがあるかも知れない。併し現在の問題としては、自分は、自分が此等の文章の作者として、換言すればその内容の或者を自ら閲歴し、その内容の或者を自ら空想し、その内容の或者に自ら同情し――かくて此等の内容を愛したる一個の人格として、藝術的に全責任を負うてゐることを明言すればそれで足りると思ふ。

阿部次郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本