種山ヶ原
本文約7,900字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
北上山地の高原である種山ヶ原へ、少年達二は兄の手伝いとして牛を連れて向かう。夏休みの終わり、霧が深く立ち込める野原で、達二は牛を追ううちに兄や祖父から離れ、独り霧の中へ迷い込む。道を見失い不安に包まれる中で、草が揺れ動き霧が濃さを増す異様な風景に遭遇する。その後、兄の声に導かれて無事に祖父たちの待つ場所へ戻り、再び光が差し込み晴れ渡る高原の中で、穏やかな秋の気配を感じるまでを描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
種山ヶ原というのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできています。
高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五、六軒ずつの部落があります。
春になると、北上の河谷のあちこちから、沢山の馬が連れて来られて、此の部落の人たちに預けられます。そして、上の野原に放されます。それも八月の末には、みんなめいめいの持主に戻ってしまうのです。なぜなら、九月には、もう原の草が枯れはじめ水霜が下りるのです。
放牧される四月の間も、半分ぐらいまでは原は霧や雲に鎖されます。実にこの高原の続きこそは、東の海の側からと、西の方からとの風や湿気のお定まりのぶっつかり場所でしたから、雲や雨や雷や霧は、いつでももうすぐ起ってくるのでした。それですから、北上川の岸からこの高原の方へ行く旅人は、高原に近づくに従って、だんだんあちこちに雷神の碑を見るようになります。その旅人と云っても、馬を扱う人の外は、薬屋か林務官、化石を探す学生、測量師など、ほんの僅かなものでした。
今年も、もう空に、透き徹った秋の粉が一面散り渡るようになりました。
雲がちぎれ、風が吹き、夏の休みももう明日だけです。
達二は、明後日から、また自分で作った小さな草鞋をはいて、二つの谷を越えて、学校へ行くのです。
宿題もみんな済ましたし、蟹を捕ることも木炭を焼く遊びも、もうみんな厭きていました。達二は、家の前の檜によりかかって、考えました。
(ああ。此の夏休み中で、一番面白かったのは、おじいさんと一緒に上の原へ仔馬を連れに行ったのと、もう一つはどうしても剣舞だ。鶏の黒い尾を飾った頭巾をかぶり、あの昔からの赤い陣羽織を着た。それから硬い板を入れた袴をはき、脚絆や草鞋をきりっとむすんで、種山剣舞連と大きく書いた沢山の提灯に囲まれて、みんなと町へ踊りに行ったのだ。ダー、ダー、ダースコ、ダー、ダー。踊ったぞ、踊ったぞ。町のまっ赤な門火の中で、刀をぎらぎらやらかしたんだ。楢夫さんと一緒になった時などは、刀がほんとうにカチカチぶっつかったぐらいだ。
ホウ、そら、やれ、
むかし 達谷の 悪路王、
まっくらぁくらの二里の洞、