『注文の多い料理店』序
本文約580字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
氷砂糖よりも美しい自然の光や風を食し、ぼろぼろの着物が宝石に変わる光景を愛する作者が、林や野原で拾い集めた物語を綴る。自然の中で直感的に感じ取った不思議な出来事や、説明のつかない心の動きをありのままに書き記す。それら物語の断片が、読む者の魂にとっての真実の糧となることを願う、著者による創作の根源と心構えを記した序文である。
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わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。
ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。
大正十二年十二月二十日宮沢賢治
完