本文へ移動
TORENDIA

城の石垣

本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

相州小田原を訪れた二人が、茶店の亭主から土地の名物を聞きつつ町を歩く。大晦日の寂しい道筋を通り、森が見える城の大手へ向かう途上で出会った老人に道を尋ねる。その後、二の丸の高く険しい石垣に圧倒され、二宮尊徳を祭る報徳神社を訪れる。本作は、小田原の城の情景や、道中で体験した出来事を綴る随筆である。

泉鏡太郎

速度
🎧 城の石垣 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

同じことを、東京では世界一、地方では日本一と誇る。相州小田原の町に電車鐵道待合の、茶店の亭主が言に因れば、土地の鹽辛、蒲鉾、外郎、及び萬年町の竹屋の藤、金格子の東海棲、料理店の天利、城の石垣、及び外廓の梅林は、凡そ日本一也。

莞爾として聞きながら、よし/\其もよし、蒲鉾は旅店の口取でお知己、烏賊の鹽辛は節季をかけて漬物屋のびらで知る通、外郎は小本、物語で懇意なるべし。竹屋の藤は時節にあらず、金格子の東海樓は通つた道の青樓さの、處で今日の腹工合と、懷中の都合に因つて、天利といふので午餉にしよう、其づ其の城を見て梅とやれ、莟は未だ固くツてもお天氣は此の通り、又此の小田原と來た日には、暖いこと日本一だ、喃、御亭主。然やうでござります。喜多八、さあ、其の氣で歩ばつしと、今こそ着流で駒下駄なれ、以前は、つかさやをかけたお太刀一本一寸極め、振分の荷物、割合羽、函嶺の夜路をした、内神田の叔父的、名を彌次郎兵衞といふ小田原通、アイお茶代を置いたよ、とヅイと出るのに、旅は早立とあつて午前六時に搖起された眠い目でついて行く。

驛路の馬の鈴の音、しやんと來る道筋ながら、時世といひ、大晦日、道中寂りとして、兩側に廂を並ぶる商賈の家、薪を揃へて根占にしたる、門松を早や建て連ねて、歳の神を送るといふ、お祭の太鼓どん/\/\。ちゆうひやら/\と角兵衞獅子、暢氣に懷手で町内を囃して通る。

此の町出外れに、森見えてお城の大手。

しばし彳む。

此處へ筒袖の片手ゆつたりと懷に、左手に山牛蒡を提げて、頬被したる六十ばかりの親仁、ぶらりと來懸るに路を問ふことよろしくあり。お節にや拵ふるに、このあたり門を流るゝ小川に浸して、老若男女打交り、手に手に之を洗ふを見た。後に小田原の町を放れ、函嶺の湯本近に一軒、茶店の娘、窶れ姿のいと美しきが、路傍の筧、前なる山凡そ三四百間遠き處に千歳久しき靈水を引いたりといふ、清らかなる樋の口に冷たき其の土を洗ふを見て、山の芋は鰻になる、此の牛蒡恁くて石清水に身を灌がば、あはれ白魚に化しやせんと、そゞろ胸に手を置きしが。

泉鏡太郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本