TRENDIA CLASSIC

残された日

小川未明

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長吉は学校の課目の中で、いちばん算術の成績が悪かったので、この時間にはよく先生からしかられました。先生というのはもう四十五、六の、頭のはげかかった脊の低い人でありました。長吉は朝学校へゆきます前に時間割りを見まして、自分の好きな作文や、歴史の時間などがあって、算術の時間がない日には、なんとなく学校へゆくのが楽しみで、またうれしくて勇んで家から出てゆくのでありましたが、もしその日に算術の時間があったときは、なんとなく気持ちが重くて、おもしろくなくて、ゆくのがいやでたまらなかったのです。

彼は学校の先生からも、また両親からも、

「おまえは算術ができないから、よく勉強しなくちゃいけません。それでないと学年試験には落第します。」

といわれるので、長吉も落第してはならないと思って、家へ帰ってからも、その日学校で習ってきた算術はかならず復習いたしました。しかし、よくよく性分から算術がきらいとみえて、まったく覚えこみもせず、すぐに忘れてしまって、なにがなんであったかわからなくなってしまいました。

彼は独りで、ほかの友だちらは、みなそうとうに算術ができるのに、なぜ自分ばかりはこうできないのかと情けなくなって、机に向かって涙をこぼしましたこともありました。けれど、作文や歴史などは好きなものですから、だれよりもいちばんよくできたのでありました。

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