本文へ移動
TORENDIA

金銀小判

本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

独り者の幸作は、雪の降る正月の夜に小判を売る子供から一包み買い求める。翌朝、それが本物の金銀の小判に変わっていることに気づいた幸作は、更なる富を求めて子供を探し出し、残りの小判をすべて買い取る。欲心に駆られ、村一番の金持ちになることを願った幸作であったが、家に帰り戸だなを確認すると、手元にあるはずの金銀の小判は再びせんべいに戻っている。誠実さを欠いた男の心理と予期せぬ顛末を描く。

小川未明

速度
🎧 金銀小判 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

独り者の幸作は、家の中に話し相手もなくその日を暮らしていました。北国は十二月にもなると、真っ白に雪が積もります。そのうちに、年の暮れがきまして、そこ、ここの家々では餅をつきはじめました。

隣は地主でありまして、たくさん餅をつきました。幸作は、そのにぎやかな笑い声を聞きますと、どうかして自分も金持ちになりたいものだと空想したのであります。

やがて、わずか日がたつとお正月になりました。けれど独り者の幸作のところへは、あまりたずねてくる客もなかったのです。結局そのほうが気楽なものですから、幸作は、こたつに入って寝ていました。

外には雪がちらちらと降って、寒い風が吹いて、コトコトと窓の戸や、破れた壁板などを鳴らしていました。元日も、こうして無事に暮れてしまった夜のことであります。

「両替、両替、小判の両替。」と、呼んで歩く子供の声が聞こえたのであります。

毎年この夜は、お宝船や、餅玉の木に結びつける小判をこうして売って歩くのでありました。

けれど、この晩は雪が降っていましたから、いかにもその中をこうして呼んで歩いている子供の声が哀れに聞こえたのであります。

「両替、両替、小判の両替。」という声は、風のまにまに遠くになったり、近くになったりして聞こえてきたのであります。

こうして、子供は呼んで歩きましたけれど、だれも買ってくれるような人がないとみえて、その声はとぎれなくつづいていました。どんなに外は寒かろうか? こたつにあたって寝ていました幸作は思いました。そして、子供はもう我慢がしきれなくなったとみえて、今度は、一軒一軒ごとに入って、

「小判を買ってください。」と、頼んでいるようでありました。

おそらく、家の中には、人々は酒を飲んだり、かるたをとったり、また、いろいろなおもしろい話をして笑っているのだと思われました。しかし、だれもこの貧乏な子供に同情をしてくれるものがないとみえました。その子供は地主の家でも断られたとみえます。

子供は、泣き出しそうな声をしながら、

「両替、両替、小判の両替。」といいながら、こっちに歩いてきました。やがて、幸作の家の戸口で、げたについた雪をはらう小さな足音がしました。

小川未明の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本