TRENDIA CLASSIC

花と人の話

小川未明

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真紅なアネモネが、花屋の店に並べられてありました。同じ土から生まれ出た、この花は、いわば兄弟ともいうようなものでありました。そして、大空からもれる春の日の光を受けていましたが、いつまでもひとところに、いっしょにいられる身の上ではなかったのです。

やがて、たがいにはなればなれになって、別れてしまわなければならなかった。そして、たがいの身の上を知ることもなく、永久にふたたびあうことは、おそらくなかったのであります。甲のアネモネの鉢は、赤い色の素焼きでした。乙のアネモネの植わっている鉢も、やはり同じ色をしていました。丙のアネモネの鉢は、黒い色の素焼きでありました。この三つの鉢は並んでいました。そして、あたりは静かであって、ただ、遠い街の角を曲がる荷車のわだちの音が、夢のように流れて聞こえてくるばかりであります。

このとき、甲のアネモネは、

「いまにも、だれかきて、私たちを買っていってしまうかもしれない。なんと私たちは、はかない運命でしょう。私は、あの黒い、広い、圃がなつかしい。昔、みんなして、あの圃の中に生まれて顔を出したあの時分が、いちばん楽しかったと思います。」といいました。

「ほんとうに、あの時分が、いちばん楽しかったですね。風は寒かったけれど、朝晩、日の光は、弱く、悲しかったけれど、そして夜には、霜が降って、私たちを悩ましたけれど、やはり、あの時分がいちばんよかったように思います。」と、丙のアネモネがいいました。

二つのアネモネの話を黙って聞いていた、乙のアネモネは、顔を上げて、

「私たちは、どこへゆくでしょう。どうかかわいがってくれる人の手に渡りたいものですね。おそらく、いっしょにはいられないでしょう。たとえ、もう二度と顔が見られなくても、おたがいにしあわせであればいいのです。けれど、みんなが同じようにしあわせであることはできないでありましょう。」といいました。

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