TRENDIA CLASSIC

天下一品

小川未明

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ある日のことであります。男は空想にふけりました。

「ほんとうに、毎日働いても、つまらない話だ。大金持ちになれはしないし、また、これという安楽もされない。ばかばかしいことだ。よく世間には、小判の入った大瓶を掘り出したといううわさがあるが、俺も、なにかそんなようなものでも掘り出さなければ、大金持ちとはならないだろう。」と、その男は、いろいろなことを、仰向いて考えていました。

すると、たなの上に乗っていた、古い仏像に目が止まりました。昔から、家にあったので、こうしてたなの上に乗せておいたのです。仏壇の中には、あまり大きすぎて入らなかったからであります。

「あの仏像が、金であったら、たいへんな値打ちのものだろうが、どうせそんなものでないにはきまっている。それに手が欠けていて、どのみち、たいした代物ではない。しかし、あの仏像がいいものであって、値が高く売れたら、どんなにしあわせだろう。俺は、たくさんの田地を買うし、また、諸国を見物にも出かけるし、りっぱな着物も造ることができるだろう。」と、男は、黒くすすけた仏像を見ながら考えこんでいました。

家の外には、もうすずめがきて餌を拾って鳴いていました。いつもなら、男は、くわをかついで圃に出なければならない時刻でありましたが、なんだか働くということがばかばかしくなって、その気になれませんでした。

男は、立ち上がって、たなの上からその仏像を取り下ろして、つくづくとながめていました。ほんとうに、手に取ってこうしてながめるというようなことは、幾年の間、いままでになかったのです。また、見れば見るほど、それがいいもののようにも思われてきました。

もうこの世にいない父親が、あるとき、旅のものからこの仏像を買ったということを聞いていました。

「こりゃ、いいものではないかしらん。」と、彼は、ますます考えはじめました。

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