村へ石油を売りにくる男がありました。髪の黒い蓬々とした、脊のあまり高くない、色の白い男で、石油のかんを、てんびん棒の両端に一つずつ付けて、それをかついでやってくるのでした。
男は、勤勉者でありました。毎日、欠かさずに、時間も同じように、昼すこし過ぎると村に入ってきて、一軒、一軒、「今日は、石油はいりませんか?」と、いって歩くのでした。
その男は、ただ忠実に仕事のことばかり考えているようでした。それには、なにか、目的があったのかもしれない。たとえば、金がいくらたまったら、店をりっぱにしようかとか、また、はやく幾何かになれば幸福だと胸の中に描いていたのかもしれない。それとも、もっとさしせまったその日のことを考えていたのか?
あまり口をきかない、この男の顔を見たばかりでは、心の中を知ることができなかったけれど、人間というものは、なにか目的がなければ、そういうふうに勤勉になれるものではなかったのです。
もっとも、男には、若い嫁がありました。年をとった母親もあったようです。小さな店だけで、石油を売るのでは、暮らしがたたなかったのかもしれない。
しかし、この村には、もっともっと貧乏の人たちが住んでいました。屋根の低い、暗い小さな家が幾軒もあって、家の中には竹ぐしを造ったり、つまようじを削ったり、中には状袋をはったりしている男も、女もあった。それでなければ、一日外に出て圃で働いているような人たちでありました。
彼らは、ものを問いかけられても、手を休めて、それに返答するだけのときすらおしんでいましたから、頭だけを外の方に向けて、
「まだ、今日はあったようだ。」とかなんとく、その石油売りにいったのでした。
「また、お願いいたします。」と、男は、軒下を去って隣の家の方へ歩いていくのでした。
その後で、家の中では仕事をしながら、家族のものが、こんなうわさをしています。