公園の花と毒蛾
本文約18,500字 ・ 読了時間 約37分
あらすじ(AIが作成しました)
さびしい高原で独り震えていた真紅のとこなつの花は、北海を旅してきた小鳥と出会い語り合う。その後、公園へと場所を移した花は、黒百合の噂や毒蛾による騒動をみつばちから聞き、自身の運命について思いを馳せる。やがて、公園を訪れた植物学者のグループによって、花は根もとから引き抜かれる。自然の大きな力や運命に翻弄されながらも、静かにその一生を終える小さな花の姿を通して、世の中の有り様を描く物語である。
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一
それは、広い、さびしい野原でありました。町からも、村からも、遠く離れていまして、人間のめったにゆかないところであります。
ある石蔭に、とこなつの花が咲いていました。その花は、小さかったけれど、いちごの実のように真紅でありました。花は、目を開けてみて、どんなに驚いたでありましょう。
「なんという、さびしい世界だろう。」と思いました。
どこを見ましても、ただ、草が茫々としてしげっているばかりで、目のとどくかぎりには、友だちもいなければ、また、自分に向かって呼びかけてくれるようなものもありませんでした。すぐ、自分のそばにあった、黒みがかった石は黙り込んでいて、「寒いか。」とも、また「さびしいか。」とも、声をばかけてくれません。
小さな、気の弱いとこなつの花は、どうして自分から、この気心のわからない、なんとなく気むずかしそうに見える石に向かって声をばかけられましょう。
花は、独りでふるえていました。ただ、やさしい眸で、自分をいたわってくれるのは、太陽ばかりでありました。しかし、太陽は、自分ひとりだけをいたわってくれるのではありません。この広い野原にあるものは、みんな、そのやさしい光を受けていたのです。この石も、また、こちらの脊の高い草も、その光を浴びました。そして、それをありがたいともなんとも思っていないように平気な顔つきをしていました。しかし、太陽は、けっしてそれに対して気を悪くするようなことがなく、平等に笑顔をもってながめていました。
とこなつの花は、自分だけが、とくに恵まれたわけではないけれど、太陽に対して、いいしれぬなつかしさを感じていたのです。そして、どうかして、すこしでも長く、太陽の顔をながめていたいものだと願っていました。しかし、この高原にあっては、それすらかなわない望みでありました。たちまち、白い雲が渦を巻いて、空を低く流れてゆきます。それは、すぐに太陽を隠してしまうばかりでなく、あるときは、まったくそのありかすらわからなくしてしまうのでありました。