ある夜の姉と弟
本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
町でやどかりを見て興味を抱いた義夫は、仕事帰りの姉に買ってもらう約束をする。後日、姉と共に露店へ向かうが、目当ての白いやどかりは売り切れていた。別のやどかりを手に帰路につく道中、義夫は自分本位な振る舞いを省みる。夜の町を後にし、たんぼ道で青い火の怪奇な光に驚きつつも、星が輝く静かな夜を姉弟が共に歩む姿を描く。
💰 この本を応援する(投げ銭)
ある日のこと、義夫は、お母さんにつれられて町へいくと、露店が並んでいました。くつしたや、シャツなどを拡げたのや、バナナを積み上げて、パン、パンと台をたたいているのや、小間物を並べたのや、そうかと思うと、金だらいの中で金魚を泳がしているのや、いろいろでありましたが、あるところへくると、ちょうど自分くらいの男の子が、集まっている店がありました。それは、やどかりのはいった、箱をござの上へ置いて、売っているのでした。やどかりは、小さなはしごの上へ登ったり、たがいに組み打ちをやったり、転げ合ったりしていました。どれも脊中にかわいらしい貝を負っている、歩くときはかにに似た不思議な虫でありました。いったいどこから、持ってきたのだろうかと、義夫は、しばらくお母さんと立ってながめていました。
「あんな大きいのがいるよ。」と、このとき義夫は、目をみはりました。
そのやどかりは大きな白いとげのある貝を負っていました。
「よくあんな大きな貝を負って歩けますね。」
「おばさん、こんなのどこにいるの。」と、きいた子供があります。義夫は、自分も心にそう思っていたので、いいことをきいてくれたと思いました。
「この白い大きいのは、小笠原島からきたのですよ。みんな、遠い南の方からきたものばかりです。」と、やどかりを商うおばさんは、いいました。
小笠原といえば、ずっと南のやしの木が茂る熱帯の地であると思いました。
「お母さん、あの爆発した三宅島より、もっと遠いんですね。」と、義夫は、いいました。
「僕、ほしいな。」
「およしなさい。家へ持って帰ると、じき死にますからね。」と、お母さんは、困ったようなお顔をなさいました。
それでほかの学用品など買ってもらって、家へ帰ったけれど、やはり、やどかりの姿が目に残っていました。また話が耳に残っていました。
「どうしてやどかりに、こんないろんな形があるの。」と、ほかの子供が、きいたら、
「やどかりは、自分の好きな貝がらをさがして、幾度も、幾度も、その中へ入ってみて、気にいったのを自分のすみかとするのだそうです。」と、おばさんのいったことなどが思い出されたのでした。