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TORENDIA

一銭銅貨

本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

明治九年発行の古い一銭銅貨を大切にする英ちゃんは、ある夜、銅貨が語りかける不思議な夢を見る。その夢の中で銅貨は、かつて電車に乗った老人を救った自身の過去の経験を英ちゃんに語る。目を覚ました翌日、英ちゃんはたこを買うために、宝物としていたその銅貨を店の人に手渡す。銅貨がしまっておかれるよりも旅に出ることを望んでいると感じ取った英ちゃんは、自身の財布からその一銭を差し出し、銅貨を社会へと送り出す。

小川未明

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🎧 一銭銅貨 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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英ちゃんは、お姉さんから、お古の財布をもらいました。そして、お母さんから、小遣いをいただくと、その中にいれておきましたが、じきに、つかってしまうので、その財布の中は、いつもからっぽでありました。

ある日、英ちゃんが、その財布を、ばたばたやっていると、お姉さんがごらんになって、

「英ちゃんの、財布の中は、いつもからっぽなのね。」と、笑いながらおっしゃいました。

「からっぽなもんか、そら、ごらんよ。はいっているだろう。」と、英ちゃんは、お金をつまんで見せました。

「たった、一銭きりしかないの?」

「姉さんは、この銅貨が、いつできたと思ってるの。そりゃ、古いんだから。」

「そうね、大きいから、大正か、明治にちがいないわ。」

「明治九年なんだぜ。まだ、うちのお父さんもお母さんも、生まれない前のだよ。その時分から、日本じゅうをぐるぐるまわっていたんだ。そう思って、僕、大事にしているのさ。」と、英ちゃんは、いまのから見ると、大形な、そして、手ずれのした、一銭銅貨を裏表を返しながら、さもなつかしそうにながめていました。

「まあ、そんなに、古いの。」と、お姉さんも、手にとって、ながめました。

「いろいろの人の手に渡ってきたんだね。」

「それは、そうよ。英ちゃんは、どんな人の手に、このおあしが渡ってきたと思うの。」

「大人や、子供や、金持ちや、貧乏人……。」

「もっと、いってごらんなさい。」

「船にも乗ったろうし、汽車にも乗ったろうし、新聞売りの手にも渡ったろうし、バッチンの穴の中へも入ったろうし、紙芝居のおじさんの手にも、そのほか考えたら、まだいろいろあるだろう。」

「だけど、海や、河の中に沈んだり、火の中へはいって、焼けてしまったら、もうこうして、このお金はなかったんですよ。」と、お姉さんは、おっしゃいました。それに、ちがいないと、英ちゃんは、思ったが、

「畳の間や、火鉢の灰の中に、落ちたことはあったかもしれないよ。」といいました。

「英ちゃんは、このお金をつかわないつもり。」と、姉さんは、おききになりました。

「僕、大事にして、しまっておくのだ。」

英ちゃんは、財布をばたばたやりながら、あちらへいってしまいました。

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