TRENDIA CLASSIC

雲と子守歌

小川未明

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どんなに寒い日でも、健康な若い人たちは、家にじっとしていられず、なんらか楽しみの影を追うて、喜びに胸をふくらませ、往来を歩いています。こうした人たちの集まるところは、いつも笑い声のたえるときがなければ、口笛や、ジャズのひびきなどで、煮えくり返っています。しかし、路一筋町をはなれると、急に空き地が多くなるのが例でした。なかでも病院の建物の内は、この日とかぎらず、いつも寂然としていました。

どの病室にも、顔色の悪い患者が、ベッドの上に横たわったり、あるいは、すわったりして、さも怠屈そうに、やがて暮れかかろうとする、窓際の光線を希望なく見つめているのでした。

「あんた、いい顔色をしているのね。」

このとき、火の気のない廊下で、すれちがった一人の看護婦が、同じく白い服を着た友だちに、言葉をかけました。

「そう、そんなに赤いこと。外の冷たい風に当たってきたからよ。」

「町へいってきたの、うらやましいわ。私なんか、昨夜から休まないんですもの。」

「よくないの? 困ったわね。」

「まだ若い奥さんなのよ。お子さんが二人もあるんですって、ほんとうに、お気の毒よ。なおればいいが。」

「あんたも、疲れるでしょう。お大事に。」

そういって、二人は、たがいににっこり笑って別れました。病人につききりの看護婦は、手に氷袋をぶらさげていました。

健康の人の住む世界と、病人の住む世界と、もし二つの世界が別であるなら、それを包む空気、気分、色彩が、また異なっているでありましょう。そうすれば、これらの若い献身的な人々は、いったいどちらの世界に住むというべきであろうか。

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