雲と子守歌
本文約4,800字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
重い病を抱える五歳の男の子は、病院のベッドで果てしない苦痛と闘っている。容体が悪化するたび、母はかつて子守歌を歌い、子を安らかな夢の世界へと導こうとする。子供は母の歌声を頼りに、痛みや悪魔の幻影から逃れ、空の雲と遊ぶ平穏なひとときを追い求める。やがて夜が更け、外では風が吹き荒れる中、母は子への深い愛情を込め、生命の続く限り歌い続ける。しかし、過酷な闘病の末、子供は静かにこの世を去り、冷たい雪が降り積もる世界で風が子守歌を奏でる。
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どんなに寒い日でも、健康な若い人たちは、家にじっとしていられず、なんらか楽しみの影を追うて、喜びに胸をふくらませ、往来を歩いています。こうした人たちの集まるところは、いつも笑い声のたえるときがなければ、口笛や、ジャズのひびきなどで、煮えくり返っています。しかし、路一筋町をはなれると、急に空き地が多くなるのが例でした。なかでも病院の建物の内は、この日とかぎらず、いつも寂然としていました。
どの病室にも、顔色の悪い患者が、ベッドの上に横たわったり、あるいは、すわったりして、さも怠屈そうに、やがて暮れかかろうとする、窓際の光線を希望なく見つめているのでした。
「あんた、いい顔色をしているのね。」
このとき、火の気のない廊下で、すれちがった一人の看護婦が、同じく白い服を着た友だちに、言葉をかけました。
「そう、そんなに赤いこと。外の冷たい風に当たってきたからよ。」
「町へいってきたの、うらやましいわ。私なんか、昨夜から休まないんですもの。」
「よくないの? 困ったわね。」
「まだ若い奥さんなのよ。お子さんが二人もあるんですって、ほんとうに、お気の毒よ。なおればいいが。」
「あんたも、疲れるでしょう。お大事に。」
そういって、二人は、たがいににっこり笑って別れました。病人につききりの看護婦は、手に氷袋をぶらさげていました。
健康の人の住む世界と、病人の住む世界と、もし二つの世界が別であるなら、それを包む空気、気分、色彩が、また異なっているでありましょう。そうすれば、これらの若い献身的な人々は、いったいどちらの世界に住むというべきであろうか。