まだ、ひる前で、あまり人通りのない時分でした。道の片がわに一軒の染め物店がありました。表へ面した、ガラスのはまった飾り窓には、若い女の人がきるような、はでな反物がかかっていました。それだけでも、通る人々の足をとめて、目をひくに十分といえますが、もう一つ、この窓の内へ、セルロイド製の、大きなはだかのキューピーがかざられて、いっそうの注意をひきました。キューピーのからだの色は、うす赤く、二つの目は、まるくまっ黒でした。この健康そうな赤ん坊ほどもある人形は、そのひょうきんな顔つきでは、いまにも、足音におどろいて、目をくるくるさし、通りかかる人になにか悪口をいって、いたずらをしかねまじきふうに見えました。つい無心できかかる人まで、その笑いにつりこまれるくらいだから、わんぱくざかりの子どもらが、なんでこれを見て、なんともいわぬはずがありましょう。
いずれは、この近所の子どもたちでした。ふたりづれの男の子が、どこからか往来へ出てきました。どちらも六つか、七つぐらいです。キューピーに目をとめると、たちまち窓のそばへ寄ってきました。
なんと思ったか、ひとりの子は、いきなり両足をひらいて、大きな目をいからし、キューピーのまねをして、人形とにらめっこをしました。
他のひとりは、また、自分の顔をガラスにおしつけて、できるだけ、よく見ようとしていました。しかし、なにをしても、キューピーには、手ごたえがありませんでした。ふたりは、これでは、こちらがばかにされるような気がして、腹立たしくなりました。
「やいキューピーのばか!」と、ひとりは、手をふりあげて、なぐるまねをして、みせました。それでも、キューピーは、だまっています。
「こら、石ぶつけるぞ!」
このとき、とつぜん、もうひとりの、男の子が、
「この、キューピー、おとなりのユウ坊みたいだよ。」と、笑いだしました。
「ユウ坊って、おりこう。」
「う、うん。」
「しょうべんたれの、うんこたれなの。」
「はっ、はっ、はっ。」
そういって、ふたりは、顔を見合って、さもおもしろそうに、笑いました。