どこかで呼ぶような
本文約3,300字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
原っぱで過ごしていた「わたくし」は、通りかかったオート三輪車の運転手と意気投合し、祝賀会でにぎわう町へと向かう。運転手は戦地から帰還後、空襲で離ればなれになった妹の行方を捜しており、町の人波の中に彼女の面影を探し続けていた。かつての友人の姿を見かけたり、往時の記憶を辿ったりしながら、二人は焼け跡の残る町を巡る。戦争の爪痕が残る中で、兄妹の再会を願う切なる思いと、未来への祈りを描く物語である。
💰 この本を応援する(投げ銭)
わたくしが門を出ると、ちょうど、ピイピイ、笛をならしながら、らお屋が、あちらのかどをまがりました。
わたくしは、あの音を聞くと、なんとなく、春さきの感じがします。どこへ遊びにいくという、あてもなかったので、足のむくまま原っぱへきました。知らぬまにとなりのペスが、ついてきました。どうしたのか、きょうは、だれのかげも見えませんでした。
風のない、おだやかな空は、どんよりとうるんで、足もとの枯れ草は、ふかふかとして、日の光にあたたまっていました。その太陽のにおいをなつかしむように、わたくしは、ごろりとからだをなげだしました。ペスも、かたわらへ、前足をのばして、うずくまりました。
しばらくすると、遠くの方から、オートバイの走ってくる音がしました。ペスは、はねおきて、往来のまん中へ出て、ほえたてました。
「ペス! ペス!」と、わたくしは、よびかえそうとしました。しかし、きかぬので、「ばかっ。」と、かけていって、わたくしは、犬を追いはらいました。
オート三輪車には、黒い眼鏡をかけた、おじさんが乗っていました。きゅうに、速力をゆるめると、
「どれ、すこし、休んでいこうか。」と、おじさんは、原っぱの中へ、車をひき入れました。
「ここは、あたたかで、いいところですね。」と、さもしたしげに、わたくしへ話しかけるので、わたくしも、いっしょに、もとの場所へきて、ふたたび草の上にねころびました。ペスは、二人のようすを見ると、きまりわるく思ったか、家へ、さっさとにげていきました。
「きみのうちの犬ですか。」と、おじさんが、聞きました。
「いえ、となりの犬です。」と、わたくしは、答えました。
「猟犬らしいが、いい犬ですね。」
「そう、よく、よそのにわとりや、うさぎをとってこまるんですよ。」
「は、は、は。」と、おじさんは、わらいました。そして、ライターで、たばこの火をつけました。
あおぐと、太陽は、黄色にもえていました。そのあたたかな光を、おしげもなく、草や人間の上にあびせています。このとき、またしても、ドーンという音がしたのです。