波荒くとも
本文約5,300字 ・ 読了時間 約11分
あらすじ(AIが作成しました)
冬の寒さが厳しい東京で、田舎から上京して製菓工場で働く少年が、無理をして自転車で配達中に倒れる。通りかかった女中の献身的な助けにより警察に保護された少年は、叔父の家へ送り届けられ、そこで家族の看病を受ける。やがて回復した少年が、春の気配が漂う中で再び工場へ戻る準備をするまでを描く。都会で過酷な労働環境に置かれながらも、人々との交流や家族の温かさを通して、困難を乗り越えて生きようとする少年の姿を描写する物語である。
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一
鉛色をした、冬の朝でした。往来には、まだあまり人通りがなかったのです。広い路の中央を電車だけが、潮の押しよせるようなうなり声をたて、うす暗いうちから往復していました。そして、コンクリート造りの建物の多い町の中は、日の上らない前の寒さは、ことに厳しかったのです。
十三、四の小僧さんが、自分の体より大きな荷を負って、ちょうど押しつぶされるようなかっこうをして、自転車に乗って走ってきたが、突然ふらふらとなって、自転車から降りると、そのまま大地の上へかがんでしまいました。そこは石造りの銀行の前でした。堅く閉まったとびらが、こちらを向いてにらんでいるほか、だれも見ているものがありません。少年は、しばらくじっとしていたが、そのうちはうようにして、やっと背中の重い荷物を銀行の入り口の石段の上に乗せて、はげしく締めつける胸の重みをゆるめたが、まだ気分が悪いとみえて、後ろ頭を箱につけて仰向けになったまま目を閉じたのでした。小さな肩のあたりが、穏やかならぬ息づかいのためにふるえています。小僧さんは、こんなにして倒れていたけれど、ときどき思い出したように電車のうなり音が訪れてくるほかは、だれもそばへよってきて、ようすをたずねるものもありませんでした。
この少年は去年の秋、田舎から叔父さんを頼って上京しました。そして、ある製菓工場へ雇われてから、まだ間がなかったのです。今朝も取次店へ品物をとどけるために出かけたのでした。二、三日前からかぜぎみで寒けがしていたのですけれど、すこしぐらいの病気では仕事を休むことができません。彼は、無理をして自転車を走らせたのです。すると、冷水を浴びるように、悪寒が背筋を流れて、手足までぶるぶるとふるえました。
「こんな病気に、負けてなるものか。」
彼は、歯噛みをしました。いくら力を入れても、力の入らない足をもどかしがりました。すると、今度は体が火のように熱くなって、耳が、ガンガンと鳴り、目の中までかっかとしてきました。これはかなわぬと思ううちに、足が重くなって、もう一歩も前へふみ出せなくなってしまったのです。それから後のことは、すこしもわかりませんでした。