TRENDIA CLASSIC

春さきの朝のこと

小川未明

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外は寒いけれど、いいお天気でした。なんといっても、もうじき、花が咲くのです。私は、遊びにいこうと思って、門から往来へ出ました。すると、あちらにせいの高い男の人が立っています。いま時分、戦闘帽をかぶり、ゲートルをしているので、おかしく思いましたが、

「まて、この人は、復員したばかりでないのか。そして、たずねる家がわからぬのでさがしているのではないか。」

こう、考えなおすと、私は、しばらく、そのようすを見まもったのでした。どうやら、この人は、頭の上のさくらをながめているのです。

「ああ、ぶじに帰って、母国の花を見るのが、なつかしいのだろう。」

こう思うと、私は、その人の気持ちに同情して、そばへ、いきたくなりました。私はつい、近づいて、いっしょに立ちながら、枝を見あげました。いつのまにかつぼみは、びっくりするほど、大きくなっていました。下を通っても、気がつかなかったなあと、思っていると、

「つぼみのさきが赤くなりましたね。」と、ふいに、おじさんが、私に、話しかけました。

なんだか、私は、うちとけた気分になれて、

「おじさんは、いまごろ復員なさったの。」と、聞きました。

「そう、けさ、ついたばかりさ。しかし、花をこうして、二度見られるとは思わなかったよ。」

おじさんは、私を見て、ほほえみました。

「きみ、学校は何年生になったの。」

「五年生。」

「そうかい、ほんとうに、子どもだけは、いいな。」と、おじさんは、いいました。

「どうして、子どもだけがいいの。」と、私は、聞きかえしました。

「きみ、ちっと、ここへかけない。」と、おじさんは、かきねの外がわの、切り石の上へ、自分がさきに腰をおろしました。けれど、私は、その前に立って、おじさんの顔を見ていました。

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