もうじきに春がくるので、日がだんだんながくなりました。晩方、子供たちが、往来で遊んでいました。孝ちゃんと、勇ちゃんと、年ちゃんは、石けりをしていたし、みつ子さんとよし子さんは、なわとびをしていました。
うす緑色の空に、頭をならべている木々のこずえは、いくらか色づいているように見えました。いろいろの木の芽が、もう出ようとしているのです。
ちょうど、このとき、あちらから黒いものが、こちらへ、のそり、のそりと歩いてきました。
「あれ、お牛よ。」と、いちばん先にみつけたよし子さんがいいました。
「どうしたんだろうね。」と、年ちゃんが、いいました。
子供たちの目は、みんなその方へそそがれました。そして、遊ぶのを忘れて、道ばたによって、通りかかる牛を見送っていたのでありました。
牛は、年をとっているように思われました。なぜなら、毛なみがうすくなって、若い時分のようにつやがなかったからです。それに、この牛は長いこと、田や、畠で働いていたか、それとも重い荷をつけた車を引いていたので、かたのあたりの毛はなくなって、皮が出ていました。これを見た子供たちは、いいあわせたように、
「かわいそうに。」と、心に思ったのです。
子供たちが、自分に同情してくれることも知らずに、牛は、のそり、のそりと歩いていきました。そして、いかにも、歩くのがいやそうに見えました。牛を引く男は、日が暮れてしまうのが気にかかるので牛を急がせようと、なわのはしで、ピシリと牛のしりをたたきました。すると、牛は、はっとして、そのときは歩みを早めたが、またいつのまにか、のそり、のそりとなるのでした。
「歩いていくのがいやなんだね。」と、勇ちゃんが、いいました。
「そうよ、きっと殺す場所へ引れていかれるのを知っているのよ。」と、よし子さんが、いいました。
「そうじゃないだろう。」と、孝ちゃんが強くうちけしました。
「いえ、いつか、ああして牛が連れていかれるのを見たとき、兄さんが、そういったわ。」と、よし子さんがいいました。
「かわいそうだな。」と、勇ちゃんと年ちゃんが、大きな声で、いっしょにさけびました。