町というものは、ふしぎなものです。大通りから、すこしよこへはいると、おどろくほど、しずかでした。子どもたちは、そこで、ボールを投げたり、なわとびをしたりして、遊びました。
横町の片がわに、一軒の古物店がありました。竹夫は、いつからともなく、ここのおじさんと、なかよしになりました。おじさんは、いつも、店にすわって、新聞か雑誌を読んでいました。まだ、そう年よりとは思われぬのに、頭がはげていました。
竹夫は、そのそばへ腰かけて、なにか、おもしろいものがありはしないかと、店の中を見まわしました。ほんとうに、いろいろのものが、ならべてありました。しかし、たいてい名を知らぬものばかりです。それに、むかしのものが多く、いまはつかっていない品なので、どうして、これがいいのか、ただ見るだけでは、美しいというよりか、むしろきたならしい感じがしたのでした。
「おじさん、あれは、女の顔なの。それとも、男の顔なの。」と、竹夫が、柱にかかっている、面をさして聞きました。どちらにも見えるからでした。
「あの、お能の面か。女の顔さ。あれは、なかなかよくできているのだよ。」
こう、おじさんに聞くと、なるほど、どことなくけだかさがあり、それでいて、いまにもにっこりわらいそうです。
「やさしくて、いいお顔だね。」
「わかるかな。は、は、は。」と、おじさんは、きげんがいいのでした。
竹夫は、このぱっとしない、ねむるような店の中に、さがしだされるのを待っている、美しいものがあるのを、感じました。
「あの、りゅうがかいてある香炉の頭は、ししの首なんだね。」と、台にのっている、そめつけの香炉を、竹夫はさしました。
おじさんは、にこにこして、新聞を下におき、めがねごしに、竹夫を見つめながら、
「きみは、なかなかいいものに目がつく。感心だ。いまから、研究心をもって、古い美術に趣味をもてば、いまに目があかるくなる。まことにいいことだ。これは、中華民国の二千年ばかりも前のものだよ。」と、おじさんは、手をのばして、わざわざ香炉をとりあげ、竹夫にわたしました。