小学校にいる時分のことでした。ある朝の時間は、算術であったが、友吉は、この日もまたおくれてきたのであります。
「山本、そう毎日おくれてきて、どうするんだね。」と、先生は、きびしい目つきで、友吉をにらみました。そして、その時間の終わるまで、教壇のそばに立たせられたのです。ほかの生徒たちは、先生から宿題の紙をもらったけれど、友吉一人は、もらうことができませんでした。
鐘が鳴ると、生徒らは、先を争って廊下から外へとかけ出しました。そのとき、良一は、先生が教員室へいかれる後を追ったのです。
「先生、山本くんは、働いているので、遅刻したのです。」と、いいました。
この意外な報告に、先生は、びっくりしたようすでした。
「そうか、なにをしているのだね。」
先生は、良一の顔を見られました。良一は、ついこのあいだ、友吉が新聞配達をしているのを見たことを話したのであります。
「よく知らせてくれた。だが、なるたけ時間におくれないようにいってくれたまえ。」
先生の声は、和らいで、目には、愛情がこもっていました。
そんなことがあってから、二人の少年は、仲よしとなりました。高等科を卒業するころには、たがいに家庭の状態も異なって、良一は、電気に興味をもつところから、そのほうの学校へいったし、友吉は、農業の学校へ入ることになりました。
「僕も、君と同じ学校へいきたいのだけれど、叔父さんが、農業がいいだろうというし、そうきらいでもないから、そうすることにしたのだよ。」と、友吉は、良一に向かって、いいました。
「学校を出たら、大陸へいきたまえ。」
「君は。」と、友吉は、きき返しました。
「僕も、支那か満洲へいきたいんだが、お母さんが年を老っているから、まだどうするか考えていないのさ。」
「三年も、四年も後のことだから。」
「あは、は、は。」
「学校が異うと、いままでのようにあわれないね。それに、僕の家では、すこし遠くへ越すんだよ。越しても、僕、ときどき遊びにくるから。」
「所を知らしてね。」
短いズボンをはいた、二人の少年は、いつまでも道の一所に立って、名残おしそうに話をしていました。