TRENDIA CLASSIC

僕のかきの木

小川未明

1 / 3

もう、五、六年前のことであります。

ある日、賢吉は、友だちが、前畑の中で遊んでいる姿を見つけたから、自分もいっしょに遊ぼうと思って、飛んでいきました。

「清ちゃん、なにをしているの。」と、立ち止まって、声をかけると、

「赤がえるを見つけているの、君もおいでよ。」と、清次が、答えました。賢吉は、みょうが畑の中へ入りました。

「赤がえるをつかまえて、どうするの。」と、賢吉は、聞きました。

「安田のおばあさんが、とくちゃんに食べさせるのだから、つかまえてくれといったのだ。」

「とくちゃんが食べると、鼻の下の赤いのがなおるから?」と、賢吉が、聞きました。

「きっと、そうなんだよ。さっき、一ぴき見つけたけれど、どこかへ逃げてしまった。」

「そのかえるは、真っ赤だった?」

「そんなに赤くなかった。」といいながら、清次は、みょうがの葉を分けて、下をのぞいていました。みょうがの子が、柔らかな黒土から、うす赤い頭を出して、白い花を咲いているのでありました。

「賢ちゃん、ここに、こんなかきの木が生えているよ。」と、突然、清次が、いいました。

賢吉は、そのそばへいってみると、かきの木の苗が、みょうが畑の端の方に一本生い出て、大きな葉をつやつやさしています。

そこから、五、六間はなれたところに、太い親のかきの木が、立っていました。幾十年となく雨風にさらされてきたので、肌が荒れて、枝は、曲がりくねっていました。甘がきで、秋になると、実の上に白い粉をふいて、枝の先にるいるいとしてみごとにたれさがるのでした。

「清ちゃん、あの木の子だね。」

「甘がきだよ。賢ちゃんにあげるから、持っていって植えておきよ。」

清次は、力いっぱいにその木を引っ張りました。すると、根は、深く入っていたとみえて根本から一、二寸、下のところで、ぽきりと切れてしまいました。

「あっ、切れてしまった。」

「惜しいことをしたね。」

「こんな、きんぼ根ではつかないね。」といって、清次は、畑の外へ、その若木を捨ててしまったのです。

小川未明の他の作品